[ 2009年12月19日 06:00 ]

【第1幕】◇第1場◇森の洞窟の中、そこはミーメの仕事場である鍛冶場。ミーメはニーベルング族のアルベリヒの弟だ。彼はジークフリートの母親ジークリンデが遺していった剣(ノートゥング)の破片を鍛え直そうと何度も試みたが、うまくいかない。ジークリンデの死後、ミーメはジークフリートを育てていた。ミーメにはある思惑があったからだ。それは、並外れたパワーを持つジークフリートを使って大蛇に変身しているファフナーを退治させ、世界を支配する魔力を持つ指環や隠れ頭巾などの財宝を奪い取ろうとの魂胆だった。大蛇退治に剣は不可欠とミーメは鍛冶仕事を行っているのだが、その魂胆を表わすかのように「指環の動機」や「ラインの黄金の動機」が交錯する。

 そこへ「ジークフリート角笛の動機」を基にした快活な音楽とともにジークフリートが森から大きな熊を連れて戻り、ミーメにけしかける。何とも破天荒な登場シーンだが、ジークフリートの強大な力とこの時点での彼の精神的な幼さを端的に表わしている。ジークフリートは、ミーメが作った新しい剣(ノートゥングではない)を取り上げるが、すぐに叩き折ってしまう。このバックでオーケストラは「若者の力の動機」を繰り返す。ジークフリートに罵倒されたミーメは「幼いときから育ててあげたのに」と泣き言をいう、いわゆる「養育の歌」。途中、「ジークフリートの動機」に圧倒されるかのように「ミーメの動機」が現れ、両者の力関係が音楽でも巧みに示されている。
 ジークフリートは水に映った自分の顔が“親”であるミーメとはまったく似ていないと言い出し、本当の親を教えろと迫る。この場面でオーケストラは「ジークフリートの動機」と「ヴェルズング族の動機」を奏で、ミーメよりも先にジークフリートの疑問への解答を示す。ミーメは最初、真相を明かすことをためらうが脅迫気味に迫るジークフリートに気圧されて過去のいきさつを語り始める。
それによるとある時、ミーメは森で倒れた臨月の女性を助けた。彼女がジークフリートを生んで亡くなったこと。その母親はジークリンデという名前であること。名前は知らないが、父親は戦いで殺されたこと。そして、その戦いで手にしていたという形見の砕けた剣を見せる。この時、「剣の動機」が輝かしく演奏される。ジークフリートはその剣を鍛え直すよう言い残して再び森へと出かけていく。ミーメは「何度も剣を鍛え直そうと試みたが出来なかったのだ」と頭を抱える。オーケストラは「絶望の動機」。
◇第2場◇
 そこに「さすらい人の動機」とともにさすらいの旅人が現れる。男は尊大な態度で少し休ませてほしいと、嫌がるミーメを無視して居座りを決め込む。男は休ませてもらった礼に3つの質問に答えるので、もし1問でも不正解があれば自分の首を進呈すると妙なことを言い出す。早く男を追い出したいミーメはこの申し出を受け入れる。この時、金管楽器によって「槍の動機」から転じた「契約の動機」が鳴り響く。ミーメの質問は(1)地下に住む種族は何か(2)地上に生活する種族は何か(3)天界に依拠する種族は何か――という他愛のないもの。ここまで「ラインの黄金」「ワルキューレ」とご覧になった方なら誰でもお分かりのはず。答えは順にニーベルング族、巨人族、神々であるのだが、これに合わせて、それぞれの動機が現れ、各種族にまつわる前作までのいきさつが、あたかもクイズに答えるように回想されていく。男は神々に関する過去を語り終えると手に持っていた槍を地面に突き立てる。すると雷鳴とともに「槍の動機」が鳴り響き、ミーメはこの男が神々の長ヴォータンであることに気付き警戒する。
 今度は逆にさすらい人が問題を出すと言い出す。最初の質問は「神々の長ヴォータンが最も愛していたにもかかわらず、邪険にしてしまった種族は何か?」。オーケストラは「ヴェルズング族の動機」を奏でる。ミーメはジークムントとジークリンデが愛し合い、その結果できた息子がジークフリートだと語ると「ジークフリートの動機」が明快な形で聴こえてくる。次の問いは「ひとりの利口なニーベルング族がジークフリートを育てファフナーを退治させ、財宝を奪おうと企んでいるが、その際ジークフリートが使うべき剣の名前は何か?」。ミーメは自分のことにもかかわらず夢中になって「ノートゥング」と答え、剣にまつわるいわく因縁を説明する。背景にはトランペットによる「剣の動機」が繰り返される。最後の問いは「折れたノートゥングを鍛え直せるのは誰か?」で、これは本来ミーメ自身が最も知りたいことだった。背景に「ジークフリートの動機」が流れ正解が暗示されるのだが、ミーメは答えられない。さすらい人ことヴォータンは、最も大切なことを聞かなかったミーメを諭しつつ「恐れを知らぬ者」と答えを明かす。ここで再び「ジークフリートの動機」。賭けに負けたミーメの首は「その男に預ける」と言い残し、ヴォータンは去っていく。
◇第3場◇
 ミーメが魂を抜き取られたように茫然となっているところにジークフリートが荒々しく戻って来る。ジークフリートは剣の完成をふたたび催促。ミーメはノートゥングを鍛え直せなかったわけを説明するためにジークフリートに「恐れ」というものを教えようとするが、彼はまったくそれが理解できない。業を煮やしたジークフリートは自分で剣を鍛え直そうとする。彼は「若者の力の動機」に乗って力強く作業を開始。「溶解の歌」を歌いながら、フイゴで火を起こし折れた剣を溶かしてしまう。溶けた剣を鋳造し直し「鍛冶の歌」を歌いながら、ハンマーを手に見事に鍛え直していく。この様子を見たミーメは事が成就した暁にジークフリートを殺害するための毒を作る。恐れを知らぬ者ジークフリートの手によってノートゥングはついに再生され、輝かしく「剣の動機」が演奏される。ジークフリートが完成したノートゥングを振り下ろすと鉄床が二つに割れ、予想以上の剣の威力にミーメが狂気の笑い声を上げる中、オーケストラのトゥッティ(全奏)による一気に駆け抜けるような力強い後奏で第1幕は閉じられる。

続きを表示

2009年12月19日のニュース