立川志の輔 人間を考える落語で受賞
映画、放送、舞台、スポーツなど多彩なジャンルで活躍する人・団体、作品をスポニチ本紙が友情と共感を込めて顕彰する「第16回スポニチ文化芸術大賞」の受賞者が10日決まった。グランプリは立川志の輔さん(54)の「志の輔らくご in パルコ」に決定。優秀賞には70歳を超えて自己改造に成功したシャンソン歌手の石井好子さん(85)、「吾亦紅(われもこう)」を世に放ったすぎもとまさと(58)ちあき哲也(59)松下章一(62)各氏の団塊トリオ、そして劇団東宝現代劇75人の会が選ばれた。故阿久悠さんには特別賞が贈られる。贈賞式は4月14日に芝の東京プリンスホテルで行われる。
三本締めでお開き。出口へ向かう客の顔はどれもが満ち足りた表情。1月27日、今や正月の風物詩となった「志の輔らくご in パルコ」の千秋楽風景だ。96年からの独演会。例を見ない同一劇場1カ月公演には06年から挑み、今年3回目を盛況のうちに終えた。
「渋谷の演劇の空間に落語なんて合うのかしらと思いながらこわごわやらせてもらってましたが、10年目を迎えた時にパルコの人が“1カ月やらない?”と恐ろしいことを」
肉体的には相当きつかったそうだが「最終日を迎えた時の達成感、それは凄かった」と振り返る。翌年の打診には、体力的なことを考えて逡巡(しゅんじゅん)もしたが、背中を押したのが笑福亭鶴瓶(56)の一言だった。「自分が作って“さあどうだ”というものを(1カ月)1万人で満足してる場合じゃないだろう、と。その励ましに“声が出る限り、体力がある限り、毎年やろう。おれがやらなくて誰がやる”と勇気をもらったんですねえ」
古典を挟み、自作の現代落語2席を高座にかける。「ガラガラ」「メルシーひな祭り」そして映画化された「歓喜の歌」…本物のママさんコーラスが現れたり、あっと驚く仕掛けもあって客席は興奮と感動に包まれる。
「最高の文学」と古典には畏敬(いけい)の念を払いつつ、古典にないものを創作して現代を活写する。「カバン持ち時代、私の落語を聞いた師匠の談志に“おまえ何が言いたいんだよ?”と言われたんです。その時に僕の落語が決まった感がありますね。“あーそうなんだ。言いたいことを言うってことが落語なんだ”って」
さまざまな矛盾を内包しながら猛烈な速度で進む現代。「ただ笑うだけなら、漫才やコントもある。しかし、お客さんに“人間ってそういうものかもしれないな”というものを持ち帰ってもらいたいんで」と、共感をテーマに新作作りに励む。「ゴミ捨てが犯罪になるほど物があふれている時代。シャンプー1つ買うにもどれを買えばいいんだよ、なんてね。それを笑う落語がない。だから作る」とこだわりを見せる。
29歳でプロになった遅咲き。入門間もなく談志の協会脱退があり、寄席育ちではない。「こんなにハンデを背負った男がグランプリ。これも変ですよね」と、落語界の革命児は屈託のない顔で笑った。
◆立川 志の輔(たてかわ・しのすけ)本名竹内照雄(たけうち・てるお)1954年(昭29)2月15日、富山県新湊市(現射水市)生まれの54歳。明大落語研究会では伝統ある高座名「紫紺亭志い朝」(五代目)を襲名。広告代理店勤務などを経て83年に立川談志に入門。84年二つ目。90年立川流真打ちに昇進。NHK「ためしてガッテン」でもおなじみ。90年文化庁芸術祭賞、07年度文化庁芸術選奨受賞。
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