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ヘキサゴンレンチより楽で早い!? ラチェットを使って作業が捗るヘキサゴンソケットのススメ【DIY派はこれを揃えてお工具! 第9回】

[ 2024年9月12日 17:00 ]

早回しや高トルクを掛けることができるヘキサゴンソケット

前回はヘキサゴンビットボルト(六角穴付きボルト/アレンボルト)の締緩に使用するスタンダードな工具としてL字型ヘキサゴンレンチを紹介した。ヘキサゴンビットボルトの使用が少ない日本車のメンテナンスをするのなら、L字型レンチを1セット揃えておけば作業に支障はないだろう。

だが、欧州車やバイク、自転車なども頻繁にイジる人だと、1回の作業で何本ものボルトを締緩することもあるだろうし、L字型レンチでは届かない奥まった場所にあるボルトの脱着をしなければならないこともあるだろう。
そんなときに力を発揮するのがヘキサゴンソケット(ヘックスソケット)だ。

この工具のメリットは6角や12角のソケットレンチと同じく、ラチェットハンドルに装着して使用できることににあり、早回しによる作業時間の短縮に加えて、ソケットを交換することで異なるサイズのヘキサゴンビットボルトを締緩ができるところにある。

さらに、手が届きにくい場所にあるボルトもエクステンションバーやユニバーサルジョイントなどのソケットレンチ用のアタッチメントを活用することでアクセスできる。また、ほとんどのL字型ヘキサゴンレンチのサイズが最大で10mmまでなのに対し、差込角が3/8インチなら14mmくらいまで、1/2インチなら24mmくらいまで用意されているので大きなサイズのボルトにも対応が可能になる。すなわち、ヘキサゴンソケットはより作業の自由度が高い工具と言えるのだ。

ヘキサゴンソケットを使うには、差込角に応じたラチェットハンドルやスピナーハンドルが必要となる。エクステンションバーやユニバーサルジョイントなどのソケットレンチ用のアタッチメントを使用することで、手が届きにくい場所にあるボルトを締緩することができる。

実際にヘキサゴンソケットを使って作業してみると、差込角の大きなサイズ、あるいはロングラチェット(もしくはスピンナーハンドル)を使うことで、より高いトルクを掛けられ、錆や熱膨張で固着したボルトを外すことができるし(ボルトを舐めないように注意が必要)、スイベルラチェットハンドルやT字ハンドル組み合わせることで早回しにも使うことができる。L字型ヘキサゴンレンチに比べて工具に厚みが出てしうので、天地方向にスペースの取れない場所では使うことはできないが、使い勝手という点ではヘキサゴンソケットのほうが優れていると感じる。

差込角3/8インチのラチェットハンドルにヘキサゴンソケット装着した状態とL字型ヘキサゴンレンチの比較。ともにサイズは5mm。前者はどうしても工具に厚みが生じるため、作業をするには厚みの分だけ天地方向の高さが必要になる。

ヘキサゴンレンチよりも高価だがヘキサゴンソケットの”妥協”は危険?

ただし、問題は価格にある。それぞれの製品を一流メーカーのセットで比べると、L字型レンチが1.5~10mmの9本セットでおおよそ2000~4000円、Wera(ヴェラ)やSwiss PBのような高級品でも8000~1万円ほどで買えるのに対し、ヘキサゴンソケットは差込角のサイズにもよるが、一流メーカーのセットで8000~1万2000円、Snap-on(スナップオン)やHAZET(ハゼット)などの高級品になると1万5000~3万円ほどする(当然1/2インチのほうが高い)。ヘキサゴンソケットはどうしてもL字型レンチよりも割高感を感じてしまう。

ARMSTRONG製・差込角1/2インチのラチェットレンチにHAZET製12mmヘックスソケットを組み合わせてフィアット500のドレンプラグを緩める。エンジンオイル交換時の写真。

とは言え、無名のノンブランド品を買うことはやはりオススメできない。L字型レンチと同様にヘキサゴンソケットも精度と品質が何よりも大切な工具だからだ。安物のヘキサゴンソケットを使用すると、ボルトを舐めたり、先端のビットやソケット部分が破損してケガにつながることもある。購入に際してはケチることなく「上質工具」をやはり選ぶべきだろう。予算不足でフルセットを買う余裕がないのなら、妥協して安物を買うのではなく、一流メーカー品の中から必要なサイズを選んで単品買いすることをオススメしたい。

ヘキサゴンソケットの選び方……HAZETかコーケンなら間違いなし?

L字型ヘキサゴンレンチと同じく、ヘキサゴンソケットも多くの工具メーカーが自社の製品ラインナップに載せている。差込角のサイズも大きい方から1/2、3/8、1/4サイズとあり、工具専門店に行くと様々なメーカー、サイズが並んでおり、どれを選ぶか迷ってしまう。基本的には専門店で実際に手に取って気に入った製品を買えば良いと思うが、ここでは参考までに筆者の考える選ぶ上でのポイントを紹介して行くことにする。

「上質工具」と言っても価格はさまざま。写真のSnap−on製の3/8インチ・ヘキサゴンソケットセットは品質・精度・耐久性ともに優れた製品だが定価は2万6678円(税込み)。良い工具を買うにはそれなりの金額が必要になる(写真:スナップオン・ツールズ株式会社)。

■差込角のサイズ
ソケットの差込角はどんな作業をしたいのかでサイズが変わってくる。最近の車のエンジンルームやインテリアなどの細かな作業に使いたいのなら、サイズが小さく取り回しの良い1/4インチがオススメだ。バイクのディスクローターの脱着など、相応の締付けトルクで固定されたボルトの脱着にも使用を考えているのなら3/8インチで揃えてしまうのも良いだろう。1/4インチと3/8インチはビットのサイズが重複しているので、想定する作業内容に応じてどちらかのサイズを選べば良いだろう。

筆者所有する差込角1/2インチのヘキサゴンソケットセット。「ノーブランド品は買うな」と書いておいて矛盾するようだが、製造メーカーの刻印が入っていない。じつはDeenブランドで販売するためにファクトリーギアがサンプル輸入した製品をギアフェスタで購入した。ちなみに購入金額は1000円。出自がハッキリした製品なら例外的に購入しても問題はない。

筆者の個人的な考えとしては、L字型ヘキサゴンレンチをセットで持っているのなら、一流メーカーの3/8インチのソケットセットを選んでおけばまず問題はないと思う。1.5~3mmサイズのヘキサゴンビットボルトは、締め付けトルクの小さいボルトやイモネジなどに使われていることが多い。使用する機会もさほど多くないため、こうしたボルトにはL字型レンチを使えば良いだろう。バイクのハンドルやステム、ブレーキなどに使われている4~5mm、ペダルやクランクなどの太めのボルトには6~8mmなどのボルトは、使用本数も多く、これらのボルトは固着していることも多い。こうしたボルトを締緩するのに、早回し作業ができ、強いトルクをかけられる3/8インチサイズのヘキサゴンソケットが使いやすい。つまりは使いわけである。

筆者は差込角1/4インチのヘキサゴンソケットセットはアメリカのCapri tools(カプリツールズ)のセットを使用している。円高の頃に個人輸入で購入した製品。1/4インチのヘキサゴンソケットはさほど高いトルクを掛けないし、品質面でも問題がない製品であることから愛用している。

差込角1/2インチのヘキサゴンソケットは、基本的にオイルパンに備わるドレンボルトや大型バイクのホイールシャフトなどの大きなサイズのボルトを締緩するのに使用する。こちらは必要性に応じて単品で買えば良く、セット品は価格も高いのであえてフルセットを購入する必要はないだろう。

なお、アメリカ製のヘキサゴンソケットの中には、1.5~4mmサイズまでを1/4インチ、5~8mmまでを3/8インチ、それ以上のサイズを1/2インチと、ビットのサイズに応じて差込角の異なるソケットで構成されたセットも存在する。それぞれに対応したラチェットハンドルを揃える手間はあるが、作業時のオーバートルクを防ぐための工夫であり、日本や欧州の製品ではあまり見かけない構成だが、理にかなったセット内容だとも言える。

■オススメのヘキサゴンソケットメーカー(1)HAZET
筆者がオススメするのが、ドイツのHAZETのヘキサゴンソケットメーカーだ。メカニックの友人曰く「HAZETで緩まないボルトは諦めろ」というくらい精度と剛性感、耐久性が高いメーカーで、ビットを差し込んだときにボルトに当てやすく、ガタツキが少ない。ドイツ製工具らしいローレットの入った梨地のソケットに、耐久性や耐摩耗性、耐腐食性を高めた金色に輝くチタンコートが施されており、見た目にも品質の高さをアピールするような製品になっている。

筆者が所有するHAZET製の差込角1/2インチのショートヘキサゴンソケットセット。5~17mmまでの9本入りで、精度、剛性感、耐久性のいずれも非の打ち所のない素晴らしい製品。

筆者はネット通販のセールスでHAZETのフルセットがセール価格で売られているのを見つけて、内容をよく確認しないまま差込角1/2サイズのフルセットを購入してしまった(本当は3/8インチのセットが欲しかったのだが……)。オーバートルクを避けるため締め付けにはあまり使わうことはなく、もっぱら固着したボルトを外すときと、サイズの大きなボルトの締緩に使用しているが、ボルトが固着して外れなくて困ったときに何度か助けられた。

使用時の剛性感は以前使用していた他社のヘキサゴンソケットとは比べものにならず、作業中にボルトの状態を把握しやすい。力をダイレクトにボルトに伝えられるので強めにアプローチしてもボルトにダメージを与えることなく、パキッという快音とともに緩むのだ。しかも、よほど状態が酷くなければ舐めかけのボルトを緩めるのにも使えてしまう。筆者が所有する5~17mmまでの9本入り・差込角1/2のショートヘキサゴンソケットセット(986/9N)が実売価格で1万5000~2万円程度。3~10mmまでの8本入り・差込角3/8のセット(8801/8H)が2万~3万円程度と価格は決して安くはないが、誰にでも自信を持って進められるヘキサゴンソケットだ。

■オススメのヘキサゴンソケットメーカー(2)コーケン
とは言ったものの、やはりHAZETは高価だ。サンデーメカニックが使うには、いささか敷居が高いかもしれない。そこで何人かのメカニックの友人にオススメのヘキサゴンソケットメーカーを訪ねてみたところ「コーケン」こと山下工業研究所を推す声が多かった。

筆者自身はコーケンのヘキサゴンソケットを使ったことはないが、その精度と品質の高さは6角や12角のソケットレンチでよく知っている。友人の使っているコーケンのヘキサゴンソケットを触らせてもらうと、黒染め仕上げのビットはボルトに差し込んだときのガタツキがなく、作業時の剛性感も高そうな印象だった。

差込角3/8インチのコーケン製ヘキサゴンソケットセット。筆者はこの製品を所有していないが、友人のメカニックの間では評判が良い製品だ(写真:コーケンツールショップ)。

コーケンの製品はスタンダードと上級グレードのZ-EALのふたつのシリーズで成り立っている。両シリーズは同じ差込角でも異なるビットの長さでラインナップされており、3/8インチを例にすると25~160mmまで7種類が用意されている。作業内容に応じてビットの長さの異なるソケットを選べるのは、コーケンらしい長所と言えるだろう。ただし、友人のメカニックによると「ビットの長いものはやはり捻じれを感じる」と言っていたが、これは工具の構造上仕方がないことだ。

差込角3/8インチのコーケン製Z-EALヘキサゴンソケットセット。よりコンパクトに、よりプロが使いやすく、より高品質にをコンセプトにスタートしたZ-EALの製品は、プロのメカニックからの評価がとくに高い。コーケンの製品はスタンダードとZ-EALで、同じ差込角でも異なるビットの長さでラインナップされており、作業内容に応じてビットの長さの異なるソケットが選べる(写真:コーケンツールショップ)。

実売価格は3~12mmまでの8本入り・全長38mm・差込角3/8のスタンダードセット(RS3010M/8-L38)で4000~7000円と比較的リーズナブルだ。ヘキサゴンソケットのセットの購入を考えている人は、まずはこの製品を買って使ってみると良いかもしれない。

■その他のヘキサゴンソケットメーカー
有名なところではWera(ヴェラ)、BONDHUS(ボンダス)、ミトロイ、エイトなどがある。以前、筆者はSwiss PBの製品を工具店で見た記憶があるのだが、公式HPに載っていないことから廃盤になったらしい。

BONDHUSの差込角3/8インチのヘキサゴンソケットセット。ビット部分が摩耗したら交換できることが特徴。

Weraはファクトリーギアやワールドインポートツールなどの工具専門店で見かけることが多いが、その他のメーカーは店頭で見かける機会が少ない。欲しい人はネット通販か工具専門店で取り寄せてもらう必要がありそうだ。これらの製品は入手性という点ではやや難があるが、いずれも高品質なL字型ヘキサゴンレンチを製造するメーカーであることから品質や耐久性についても間違いはないはずだ。実勢価格は差込角3/8インチのセットで、WeraとBONDHUSが1万~1万5000円、ミトロイとエイトが4000~7000円ほどとなる。

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