尚弥VS井岡のドリームマッチは実現するのか? 井上が日本人対決に興味を示した理由
プロボクシングWBA&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(28=大橋)が、WBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(32=志成)との対戦に興味を示した。今月14日に東京・後楽園ホールで行われたWOWOWのイベント「エキサイトマッチ30周年記念リングサイド会議SP『黄金の中量級』in後楽園ホール」にゲスト出演。イベント後の囲み取材で、以前からファンの間で待望論のあった日本人同士のドリームマッチについて言及した。
実は、井上は囲み取材の中で1度も井岡の名前を出してはいない。「日本人」「5階級制覇」「大みそか」など井岡を連想させるワードを口にし、「日本人対決の実現に向けても動きたい」「盛り上がるのであればありかな」などと発言しただけだ。昨年末に2022年の目標としてバンタム級での4団体統一、そしてスーパーバンタム級に階級を上げての4階級制覇を掲げた井上が新たな選択肢を示したわけだが、なぜ今、日本人対決なのだろうか?理由は三つある。
一つは井上がターゲットとするWBC王者ノニト・ドネア、WBO王者ジョンリール・カシメロ(ともにフィリピン)の動向。カシメロは昨年12月にUAEのドバイで行われる予定だった同級1位ポール・バトラー(英国)との指名試合を体調不良を理由に直前でキャンセル。王座はく奪こそ免れたが、バトラーとの対戦指令が出されており、すぐに対戦することは難しい状況だ。一方、ドネアはWBC暫定王者レイマート・ガバリョ(フィリピン)との団体内統一戦を制したが、井上との交渉を有利に進める意図もあってか、1階級下げてスーパーフライ級でWBCフランチャイズ&WBAスーパー王座を保持するファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の勝者、井岡が統一戦を計画しているIBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との対戦も模索。井上のオファーに二つ返事という状況ではなくなっている。
加えて、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大により、政府が外国人の新規入国を原則禁止にしたため、国内で世界戦開催の見通しが立たない状況も続いている。井上ほどのネームバリューがあれば、海外での開催も可能だが、国内よりも海外でオミクロン株の猛威は振るう海外で試合を行うリスクは小さくない。
そしてキックボクシングの“神童”那須川天心(23)とK―1王者・武尊(30)のビッグマッチが決まったことにも触発された。武尊と交流のある井上は「一ファンとして楽しみ」と話すほどで、「ファンが見たいカードが決まった時の雰囲気だったり、異様な雰囲気を醸し出す試合。自分もそういう試合を組んでいきたい」と、キャリア後半に入り、自身も「記憶に残る試合をしたい」の思いを強くした。
実現へのハードルは決して低くはないが、まったくの夢物語というわけでもない。スーパーバンタム級への転級も視野に入れる井上が階級を下げることは無理なため、井岡は階級を上げることは絶対条件となるが、実力ほど知名度が高くないアンカハスと対戦するよりもメリットは大きいはず。ただ、仮に井岡が対戦を決断したとしても、バンタム級の体をつくるための準備期間は不可欠で、バンタム級にとどまる期間がそう長くはないであろう井上とタイミングが合うかどうか?が最大の問題となる。
日本の誇る両雄がそれぞれの階級で4団体統一を実現させるのがベストであることは間違いない。だが、今後もコロナ禍が続き、その道を進めないであれば、交わらないはずの2人が対戦する姿を見てみたいと思う。(記者コラム・大内 辰祐)