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元王者・河野公平、悔いなき引退 記者も「いい夢を見させてくれて、ありがとう」

[ 2018年11月27日 09:44 ]

引退会見を開いた元WBA世界スーパーフライ級王者・河野公平(撮影・中出 健太郎) 
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 「生まれ変わってもボクシングはやらないと思う。やりきったので。燃え尽きました」

 プロボクシングの元WBA世界スーパーフライ級王者・河野公平(ワタナベ)が現役引退を発表した。会見した11月22日は18年前にプロデビューした日で、38歳の誕生日の前日。喜怒哀楽をあらわにしない、普段通りの表情で「悔いなし」を口にする姿に、こちらもホッとした。河野の義父、シンガー・ソングライターみなみらんぼうもダメージの蓄積を心配していたという。

 よくぞここまで戦い抜いたと思う。高校時代は陸上部でアマ経験なし。プロデビュー戦でいきなり負け、そこから世界王者まで上り詰めた、今や珍しい部類の“ゼロからの叩き上げ”だ。陸上出身で自信があったというスタミナは抜群で、亀田興毅を沈めた右などカウンターも切れ味は鋭い。だが、特にパンチ力が凄いわけではなく、当てる精度も高くなく、かなり被弾も多いなどボクシング自体は見栄えが悪い。2度の世界王座陥落も、不運な負傷判定で敗れた17年10月のレックス・ツォー(中国)戦も、攻勢をポイントに取ってもらえなかった。2度目の世界挑戦に失敗してからは3連敗と、世界王者になる前に引退していてもおかしくなかった。

 だが、誰とでも戦い、どこのリングにも上がった。ひたすら前へ出続ける無骨なファイトが好感を呼び、海外からも対戦相手としてオファーが届いた。名城信男、佐藤洋太、亀田興、井上尚弥と新旧の日本人世界王者だけでも4人と対戦。海外勢もトマス・ロハス(メキシコ)、テーパリット・ゴーキャットジム(タイ)、リボリオ・ソリス(ベネズエラ)、デンカオセーン・カオウィチット(タイ)、ルイス・コンセプシオン(パナマ)、レックス・ツォーと、有名選手の名前が次々に挙がる。日本のライセンスを持たない亀田興と米シカゴで戦い、「河野選手が憧れ」というツォーと対戦するため香港へ出向き、今年5月の現役最後の試合はオーストラリア・メルボルンまで行って、10月にワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)にも出場したジェイソン・モロニー(オーストラリア)に「過去最高の出血」の末に敗れた。

 世間の評価は「亀田を引退させた男」。ボクシングファンなら、4回に3度ダウンを奪って悲願の戴冠を果たしたテーパリット戦のイメージが強いだろう。個人的には、井上への挑戦が強烈に印象に残っている。2度目の王座陥落直後の16年9月、WBO世界スーパーフライ級王者だった井上が3度目の防衛に成功した翌日。大橋秀行会長が「尚弥が強すぎて対戦を打診しても断られ続ける」と漏らした際、記者が半分冗談で次期挑戦者として勧めたのが河野だった。だが、大橋会長はすぐに連絡を取り、河野も家族の反対を押し切って挑戦を決断。結果、6回に壮絶な初KO負けを喫するのだが、井上のジャブをかいくぐってロープへ押し込み、右オーバーハンドやボディーを打ち込んでいった戦い方には感銘を受けた。6回にカウンターでダウンしたのも、3回の時点で「このままでは倒される」と覚悟して前へ出たため。この試合以降、凄みを増した井上とまともに戦えた選手は存在しない。

 最終戦績は46戦33勝(14KO)12敗1分け。12敗のうち10敗が判定負け、1敗が現役最終戦の負傷TKO負けで、本当のKO負けは井上戦だけだった。引退会見の朝、母・久子さんに連絡した河野は「ここまでいい夢を見させてくれて、ありがとう。公平は私の誇りです」と言われたという。記者の気持ちも、まったく同じだ。 (スポーツ部専門委員・中出 健太郎)

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2018年11月27日のニュース