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アウェーの小さいリング生かした伊藤、完璧だった日本人37年ぶり快挙

[ 2018年8月8日 11:00 ]

米国で王座を奪取した伊藤はベルトを手にガッツポーズ(撮影・西川 祐介)
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 プロボクシングのリングの大きさは、内側の一辺が18〜24フィート(約5・47メートル〜7・31メートル)と規定で決められている。最も大きなリングと最も小さなリングでは、一辺で人間1人分の身長差があることになる。日本ボクシングコミッション(JBC)の公式サイトには「大きな選手が多い国では比較的大きなリングが使用され、日本のように体重の軽い選手が多い国では比較的小さめのリングが使用される傾向がある」との説明がある。

 7月28日(日本時間同29日)にWBO世界スーパーフェザー級王座決定戦が行われた米国のリングは、テレビ画面を通しても明らかに小さかった。米フロリダ州オーランドの郊外にある会場は収容約3000人と小規模で、実際にリングに上がった伊藤雅雪(27=伴流)も「小さい」と感じたという。だが、この日のために準備した作戦を決行するにはうってつけだった。大きなリングになるほど足を使いやすいアウトボクシングではなく、小さなリングの方が有利な、相手に接近してのインファイトだ。

 従来の伊藤は「待ちのボクシング」の印象が強かった。相手が出てくるとスッと下がり、タイミング良くカウンターを打ち込む。ディフェンスの意識が高く、ボクシングもきれいなのだが、慎重すぎる姿勢が物足りなく思えた。ところが、初の世界戦では自ら距離を詰めて先に手を出し、前に出たら強いクリストファー・ディアス(プエルトリコ)を後退させた。ワンツーで終わらずに3、4、5発とパンチをまとめ、4回にはダウンも奪って大差の3―0判定勝ち。日本人が米国で世界王座を獲得するのは、1981年11月にWBAスーパーウエルター級王者となった三原正以来37年ぶりだった。

 「スパーリングではできても、試合になるとできなかった」(伊藤)接近戦を命じたのは、ルディ・エルナンデス・トレーナー。帝拳の契約選手だった元WBA、WBC世界スーパーフェザー級王者ヘナロ・エルナンデスの兄で、畑山隆則ら日本人を数多く指導したほか、試合中の止血を担当するカットマンとしても知られる。15年から年3度のロサンゼルス合宿で強化を図ってきた伊藤も師事し、今回は3カ月前から「ディアスは接近戦ができない」「右フックを打つときはガードが前にある。その裏を狙えば確実に当たる」と対策を仕込まれたという。

 プエルトリコ系住民が多いフロリダは伊藤にとってアウェー。「リスペクトされないと厳しい、1ラウンド目からおどかせ、と言われて行ったら相手がオッという顔をした」。リングの狭さも実感し、頭の片隅にあったアウトボクシングの可能性を消して接近戦の決意を固めた。ポイントをリードした中盤には、エディ・トレーナーから「競ってるぞ。ここをどこだと思ってる。手を出せ」とハッパをかけられた。前進をやめない伊藤の前に、ディアスは小さな戦場で逃げ場を失った。

 伊藤は小6からバスケットボールを始め、スポーツ推薦で高校に入学した。大舞台で突然のモデルチェンジが可能だったのは、高い身体能力があってこそだ。リング、戦略、作戦、伊藤のポテンシャルと強い意思が絶妙に絡み合ってのベストパフォーマンス。判定が読み上げられている間にディアスが新王者を称える拍手を始めたほど、完璧な戴冠だった。(専門委員・中出 健太郎)

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格闘技の2018年8月8日のニュース