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久我VS和気の日本タイトル戦、ハイリスクでも意味があるこれだけの理由

[ 2018年5月19日 10:30 ]

日本スーパーバンタム級タイトルマッチで激突する和気(左)と久我
Photo By スポニチ

 「史上最大の日本タイトルマッチ」と銘打たれたボクシングの日本スーパーフェザー級(当時はジュニアライト級)タイトルマッチが行われたのは、20年前の1998年3月。挑戦者の畑山隆則(横浜光)が王者・コウジ有沢(草加有沢)に9回TKO勝ちし、同年9月の世界王座奪取に弾みをつけた。日本タイトルマッチとしては当時、10年ぶりにテレビが生中継。ファイトマネーは両者500万円、勝った畑山にはボーナス500万円と400万円相当の車も贈られた。ともに無敗の人気者2人に世界挑戦権を争わせた大胆なマッチメークは、「ハイリスク・ハイリターン」と呼ぶにふさわしかった。

 7月27日、後楽園ホールで注目の日本タイトルマッチが行われることが決まった。日本スーパーバンタム級王者・久我勇作(ワタナベ)に“リーゼントボクサー”和気慎吾(FLARE山上)が挑戦する。知名度では世界挑戦を経験している和気が上だが、2度防衛中の久我もこの階級で国内屈指のハードパンチャー。久我はWBC7位など主要4団体全てで、和気も3団体で世界ランク入りしており、世界戦が実現可能な地位にいる。敗れれば世界戦線から後退するリスクがあるが、久我は「ファンが喜んでくれる盛り上がる試合をして、認めてもらってから世界へ行きたい」、世界初挑戦失敗後は4連続KO勝ちの和気も「ハラハラする試合が欠けていた。世界戦が今できないのなら、強い選手とやりたかった」と意欲的だ。

 実は、現在のスーパーバンタム級は世界戦が組みやすい状況とは言えない。IBF王者・岩佐亮佑(セレス)と、最近2試合を日本で戦っているWBA王者ローマン(米国)は、それぞれ強敵との指名試合が指示されている。WBC王者バルガス(メキシコ)とWBO王者ドグボエ(ガーナ)は米大手プロモーションと契約しているため日本に呼ぶことが難しく、敵地での挑戦にも知名度が必要となる。ドグボエが希望する統一戦の方向に向かうと、世界戦実現にはさらに時間がかかる。世界挑戦がほぼ内定していた畑山と異なり、「久我VS和気」はハイリスクの一方、ハイリターンは保証されていない。

 だが、事実上の挑戦者決定戦だった20年前の畑山―コウジ以上に、久我と和気が戦う意味はある。現在の国内スーパーバンタム級は2人以外にも、世界再挑戦を狙う東洋太平洋王者・大竹秀典(金子)、松本亮(大橋)、亀田和毅(協栄)、若手の丸田陽七太(森岡)、水野拓哉(松田)と有力選手が多い。彼らが世界上位ランカーを破って王者に対戦をアピールするのならともかく、国内でのサバイバルすら避けていては、いざ世界挑戦となってもファンの理解は得られまい。また、亀田和を除くと一般への知名度が低く、世界を獲ったとしても「名前も覚えてもらえない王者」となる恐れがある。当座のハイリターンは望めなくとも、強い者と戦えばモチベーションや高い質の練習が保たれるし、名勝負で“ストーリー”をつくることは世界への機運を高めることにもなる。何よりも、国内プロボクシングの活性化に欠かせない、日本タイトルマッチの地位向上につながるはずだ。(スポーツ部専門委員・中出 健太郎)

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2018年5月19日のニュース