違和感だらけだった亀田興毅“引退試合”
鉄拳制裁や愛のムチ…そんな言葉に置き換えられて暴力が容認されていた時代もあったが、今や絶対的タブー。それに異論を唱えるつもりはない。ただ、ボクシング会場で熱狂する人々の中に身を置くと、闘争心というものは、つくづく人間の本能なんだなと思う。1対1の殴り合いは「暴力」以外の何物でもない。それをボクシングというスポーツとして成立させているのがルールの存在であり、ルールが守られていなければ、ただの殴り合いでしかない。
5日に東京・後楽園ホールで行われたボクシング興行「ラスト亀田興毅〜最後の現役復帰〜」は違和感だらけだった。「引退試合」と銘打ちながら公式試合と認められず、実質は公開スパーリング。日本ボクシングコミッション(JBC)が対戦相手のポンサクレック氏のライセンス再申請を却下したためだが、ルールには選手を守る目的もあり、JBCの判断は当然のことだった。亀田サイドが希望した試合用8オンスのグローブ使用、8ラウンド制も認めず、10オンスのグローブで6ラウンド制。結果は亀田興の“2回TKO勝ち”。「どんなもんじゃ〜!」と雄叫びを上げ、「この状況で身を引くのが一番カッコいい」と話しておきながら、引退セレモニーの10カウントゴングの途中で「ちょっと待って!」。引退を撤回し、「もう1人だけ」とローマン・ゴンサレスとの対戦希望をぶち上げるなど、まるで“ドッキリ”のような展開で「ラスト亀田興毅〜最後の現役復帰〜」のタイトルそのものを自身で否定して幕を閉じた。
引退を撤回した亀田興の心情は理解できる。約3カ月半かけて「ゼロから作り直した」という肉体からも本気度は伝わってきたし、「もっと強くなれる」という気持ちが芽生えたとしても不思議ではない。公式試合ではなく、公開スパーリングとなったことで不完全燃焼の思いが残り、決意が揺らいだのかもしれない。「自分にウソはつけない」と語った亀田興だが、結果的には“最後の勇姿”を見るためにチケットを購入したファンにはウソをついてしまった。
エンターテインメントとしては成功だったのだろう。ただ、プロスポーツとしては…。7日に同じ後楽園ホールで行われた日本スーパーライト級タイトルマッチ。世間的にはさほど注目されていない試合だったが、細川バレンタインとデスティノ・ジャパンの筋書きのない死闘には思わず鳥肌が立った。(大内 辰祐)