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最終章の始まり――粟生隆寛と八重樫東

[ 2018年2月23日 09:30 ]

3月1日に再起戦を行う粟生隆寛
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】元世界王者2人がプロボクサー人生の集大成を見据えて再起戦に臨む。33歳の元WBCフェザー級、スーパーフェザー級王者・粟生隆寛(帝拳)は3月1日、ダブル世界戦が行われる両国国技館で8回戦に出場。12年10月にWBCスーパーフェザー級王座を奪われたガマリエル・ディアス(メキシコ)と再戦する。WBAミニマム級、WBCフライ級、IBFライトフライ級を制した34歳の八重樫東(大橋)は3月26日、後楽園ホールでインドネシア人選手と10回戦を戦う。

 粟生のリング復帰は実に2年10カ月ぶりとなる。15年5月、WBO世界ライト級王座決定戦でレイムンド・ベルトラン(メキシコ)にTKO負け(ベルトランの薬物違反が発覚して無効試合に変更)。同年11月にディアス相手の再起戦が予定されていたが、左腓(ひ)骨筋腱脱臼でキャンセルした。手術とリハビリの期間があったとはいえ、これほどの長期ブランクは異例だ。その間には、ジムから「もういいのでは」「何のためにやるのか」と事実上の引退勧告も受けたという。

 「何をやってるんだろうという時期もあったけど、辞めたら後悔すると思った」。現役続行にこだわり、ようやくチャンスをつかんだが、現状はブランクが長すぎて「自分がどのレベルなのかも分からない」。3階級制覇を狙ったライト級はベルトラン戦でパワーの差を実感しており、「筋肉をつけて階級を上げるのか、スーパーフェザー級でもう一度やるか」も次戦で見極めるつもりだ。1月に行った沖縄での走り込みキャンプでは同僚の村田諒太にこそ及ばなかったものの、好タイムをマーク。“査定試合”と位置づける復帰戦への意気込みを示した。

 八重樫は昨年5月、1回TKO負けでIBF世界ライトフライ級王座から陥落。世界戦で打ち合いを重ねてきたダメージを考慮し、現役続行には反対の意見も多くあったという。だが、スーパーフライ級へ階級を上げ、目標は日本人初の4階級制覇と、粟生よりもビジョンは明確だ。体をリセットするために昨年末の興行への出場を断り、35歳で10カ月ぶりのリングに上がる。「性格的にもそっちの方が向いている」とベテランらしからぬ“量の練習”を追い求めたり、「厳しいと思われるところへ挑戦していくのが面白い」と話すあたりに、八重樫の真骨頂が感じられる。

 粟生も八重樫も「やるからには世界を目指す」としたが、残された時間は多くないと覚悟した上でのリスタートだ。八重樫は「自分がどのように全うできるかが一番の課題になる」と“最終章”を意識しており、さらに「スポーツ選手の終わり方なんてきれいなものじゃない。それでも、少しでも悔いのない終わり方ができれば」と付け加えた。どこまで戦えば満足し、納得できるのかは、本人もまだ分からない。進退に関しては健康面はもちろん大事だが、プロとしてリングに上がるのなら、自分のパフォーマンスにどれぐらいの商品価値があるのかを見極めるのもポイントになるだろう。天国も地獄も見てきた2人の生きざまは、さらに濃密になってファイナルカウントダウンに入る。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)51歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。後楽園ホールのリングサイドの記者席で、飛んでくる血や水を浴びっぱなしの状態をコラムの題名とした。冬季五輪は2002年のソルトレークシティー大会を取材。レジェンド葛西はもちろん、スピードスケートのペヒシュタイン(ドイツ)、ジャンプのアホネン(フィンランド)ら当時の選手が平昌にも出ていて、ベテランの底力に感心させられた。

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