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価値を高める――IBF世界ミニマム級王者・京口紘人

[ 2018年2月1日 09:35 ]

今年の目標を「価値を高める」と記した京口(右)。左はライトフライ級統一王者の田口良一
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 【中出健太郎の血まみれ生活】ジム内で「ケチグチ」と冷やかされている。世界王者になっても財布のひもが固いのだという。ワタナベジムの渡辺均会長いわく「つつましい生活を送っている。“ちゃんと貯金してます”と。いい心がけだと思う」。だが、全て貯め込むドケチというわけでは決してない。後輩の面倒見が良く、食事にも連れていくため、「1カ月の食費は12、3万円」。風邪予防に「R―1ヨーグルト」を大量購入するなど健康にもお金を使っている。

 京口紘人は世界王座奪取後の昨年8月、ジムの寮から家賃11万3000円(管理費込み)のマンションへ引っ越した。24歳で1人暮らしを始め、逆に節制への意識が高まったという。食事は野菜をしっかり摂り、焼き肉へ行っても食べるのは赤身が中心。学生時代は週6回は腹に収めていたラーメンも、試合がない時期で週2回にまで減った。「ウエートをミスしたら王者ではなくなってしまう。前は体をつくるためにビックリするぐらい食べていたけど、今は単純にお腹いっぱいになる。脂身は3口食べたら気持ち悪くなる」。体重が増えないようにフィジカルトレこそ抑えているものの、意識も体もアスリートらしくなった。

 2017年は全てタイトルマッチの4試合に全勝。2月に東洋太平洋ミニマム級王座を獲得し、4月に初防衛すると、7月に国内最速記録のデビューから1年3カ月で世界王者となり、大みそかには8回TKO勝ちで初防衛に成功した。7月はラフファイターの前王者アルグメド(メキシコ)からダウンを奪う3―0判定、12月は指名挑戦者のブイトラゴ(ニカラグア)を途中から一方的に攻め立ててレフェリーストップ。倒しきれずに本人は悔しがったが、成長を実感させる内容だった。米専門誌リングとスポーツ専門局ESPNはともに、プロ9戦の京口をミニマム級全選手の3位にランク。ちなみに1、2位は49戦全勝のWBC王者ワンヘン・ミナヨーティン(タイ)と、16戦全勝のWBA王者ノックアウト・CPフレッシュマート(同)だ。

 1月23日の練習再開日、今年の目標を問われ「価値を高める」と色紙に記した。同日、自身のツイッターに「最軽量の世界チャンピオンとかアジアチャンピオンと変わらなくない?」との書き込みがあったばかりだった。選手層がアジアや中南米に偏っているミニマム級ゆえ、8戦目で世界を獲れたのは否定できない。だからこそ、「評価される選手になりたい。ファンが望む、ヒリヒリするような試合をクリアしていくことがベルトの価値を高める一番の近道と思う」と真剣な表情で決意表明した。

 渡辺会長はWBO王者・山中竜也(真正)との年内の統一戦の可能性を示唆したが、ミニマム級最強を証明したいのならワンヘンとの統一戦が分かりやすい。ノンタイトル戦の多さや対戦相手の質が疑問視されているワンヘンは、昨年11月に前WBO王者の福原辰弥(本田フィットネス)を破って49勝目を挙げ、フロイド・メイウェザーの50戦全勝に“王手”をかけて米国でも話題となった。豊富な資金力をバックにタイ国外には出てこようとしない相手を敵地に乗り込んで倒し、無敗記録をストップすれば、世界の評価も揺るぎないものとなるはずだ。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)2月で51歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。後楽園ホールのリングサイドの記者席で、飛んでくる血や水を浴びっぱなしの状態をコラムの題名とした。ミニマム級のヒーローと言えば、やっぱり大橋秀行。90年2月、日本勢の世界挑戦連続失敗を止めたWBC王座戴冠は社会人になる直前。記者になったら、こんなシーンを書きたいと思わせてくれた。

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2018年2月1日のニュース