嫌われ者の天才はどこへ行く

[ 2017年12月17日 12:50 ]

6回、リゴンドー(左)にパンチを繰り出すロマチェンコ (AP)
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 現地9日に米ニューヨークで行われたボクシングのWBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチは、史上初の五輪2大会連続金メダリスト同士による世界王者対決として注目を集めた。結果は2008年北京、12年ロンドン五輪金の王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が、00年シドニー、04年アテネ五輪2連覇のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)に完勝。元アマチュアエリート2人のテクニック合戦が期待されたが、リゴンドー必殺の左カウンターを封じ、自在のステップから速射砲のようにパンチを浴びせたロマチェンコの“ハイテク”ぶりだけが際立った。

 村田諒太との再戦で8回の開始ゴングに応じられなかったアッサン・エンダムのように、リゴンドーも7回を迎える前に試合続行を諦めた。前半のうちにほぼ手詰まりの状態に追い込まれ、棄権によるTKO負け。チーフトレーナーがキューバ人のペドロ・ディアス氏というのも同じだ。ただし、勝てそうにない絶望感はリゴンドーの方が上だっただろう。棄権は2回に左拳を痛めたためと主張したが、「いつ痛める機会があったんだ?」と皮肉る声が続出するほど内容は一方的。プロでは19戦目で初黒星、敗戦自体もアマチュア時代の03年以来だという。

 WBA世界スーパーバンタム級スーパー王者のリゴンドーは14年の大みそか、大阪で天笠尚の挑戦を受けたことで日本でも知られている。当時は超大物の来日に驚かされたが、2度ダウンを喫して打たれもろさを露呈する一方、天笠の顔面をボコボコにして棄権に追い込む実力も披露した。だが、亡命してプロ活動に転じた米国では「強いけど試合がつまらない」と嫌われ、致命的なほど人気がない。身体能力と技術は一級品でパンチ力もあるが、“ガラスのあご”を守るため“安全運転”に徹する試合ばかりで、13年のノニト・ドネア(フィリピン)戦以降はビッグマッチと無縁だった。今回、2階級上のロマチェンコに挑戦するリスクを冒したのも、久しぶりの大物との対戦と40万ドル(約4480万円)のファイトマネーが理由だったはずだ。

 リゴンドーは6月、1回の終了ゴング後に放ったパンチでモイセス・フローレス(メキシコ)を倒してしまい(裁定は無効試合)、WBAから再戦を命じられていた。それでもロマチェンコ戦を選択したため、WBAのメンドサ会長は「敗れれば王座剥奪」との見解を表明。世界王座認定団体からも嫌われた形のリゴンドーは「もし俺がメイウェザーやゴロフキンだったら、こんな仕打ちはされない」と反発したものの、同会長は試合後に改めて剥奪を示唆した。

 引退はせず、今後はスーパーバンタム級に戻って戦う方針というが、プロ初黒星で商品価値を下げた上に9度防衛した王座も失えば、もともと不人気の37歳はさらに試合枯れに陥ることが予想される。確かに試合は面白くないけれど、このまま才能が消えていくのも寂しい気がする。日本人の世界ランカーも多いスーパーバンタム級やフェザー級で、再び世界戦線に絡んできてほしい。(専門委員・中出 健太郎)

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