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後継者、誕生。――IBF世界スーパーフェザー級王座決定戦

[ 2017年12月15日 10:00 ]

新王者を告げられ、コーナーに駆け上がって喜ぶ尾川
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】「それで、いつ現役復帰するんですか?」席に着いた直後、試合の感想ではなく、自身への質問を浴びせられた元WBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司氏は苦笑いした。同じ階級の帝拳ジムの後輩、尾川堅一が米ラスベガスで現地9日にIBF王座を獲得。三浦氏は都内のスタジオでゲスト解説を務めたが、試合後には記者から「まだ、三浦もやれるんじゃないか?」との声が続出していた。

 尾川と同じ興行のリングには、三浦氏と因縁のあるメキシコ人選手が多く上がっていた。7月に三浦氏を破り、引退へ追い込んだ現WBC王者ミゲル・ベルチェルトはケガで防衛戦をキャンセルしたが、15年11月に「年間最高試合」に選出される激戦の末、三浦氏から王座を奪った前王者フランシスコ・バルガスは前座で負傷判定勝ち。メーンでは今年1月に三浦氏に派手なKO負けを喫したミゲル・ローマンが、三浦氏との対戦が計画されていた元2階級制覇王者オルランド・サリドにTKO勝ちした。三浦氏がリングに上がっても違和感のないメンバーがそろい、王座決定戦を戦った尾川とテビン・ファーマー(米国)も含めて、誰とでも面白い勝負になると思えた。

 王座決定戦は2―1の判定が示すように、どちらが勝ってもおかしくない接戦だった。終始プレッシャーをかけてワンツーを打ち込み、単発ながら効かせる場面もあった尾川と、手数を出してカウンターも再三当てた一方、チョップ気味で見栄えのしないファーマー。互いに決め手に欠けた。

 手数重視の採点が多く見受けられるラスベガスだけに尾川不利と思われたが、ジャッジ2人は攻勢を評価したようだ。確かに、ファーマーのジャブは効果的とは思えず、むしろ尾川の左に押される姿は全くの期待外れ。本人の「判定を盗まれた」とのコメントも、むなしいだけだ。米HBOテレビは117―111の大差でファーマーの勝ちとしたが、打ち合いが見たいファン心理とは大きくかけ離れている。こういう採点が最近の判定騒動の元凶ではないのか。

 いずれにしろ世界王者となった尾川は、三浦氏や元WBA王者・内山高志氏から“日本代表”を引き継ぎ、スーパーフェザー級の世界戦線に加わることになった。米国では36年ぶり、ラスベガスでは初の日本人世界王者誕生も快挙だが、軽量級と違って本場のリングに上がるチャンスやビッグマッチの可能性があるだけに、お楽しみはむしろこれからだ。WBO王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が一人飛び抜けている以外は群雄割拠で、前述のとおりライバルには事欠かない。日本拳法仕込みの「踏み込んでの右」がファーマーをビビらせたように、倒せる武器があるのも人気を得る意味で大きい。“ボンバーレフト”で本場の観客を魅了した三浦氏も「何かしら持っていて、それを生かした方がいい。王者になる人は何かしら持っているもの」と期待を寄せた。

 冒頭の質問後、現役復帰する気持ちがあるか問われた三浦氏は「そうならないように抑えている自分がいる」と律儀に答えた。「あのリングに立ちたい、もう1回やってみたいというのもある」とも話したが、来春には故郷・秋田に戻り、第2の人生を送るプランがあるという。

 7月末、ベルチェルトに敗れて引退を決意し、ジムへあいさつに訪れた際に偶然、ビルのエレベーター下で会ったのが尾川。「お前なら世界チャンピオンになれる。なってくれ」と激励した後輩は、見事に約束を果たした。「俺を追い越して、上へ行ってほしい」。現役への未練を振り切るように“後継者”に希望を託した。(専門委員)



 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)50歳。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、NBA、海外サッカーなどを担当。かつてボクシングを担当した1998年、畑山隆則がWBA世界スーパーフェザー級王座を獲得したのを目撃。97年の世界初挑戦時は同階級はまだ「ジュニアライト級」と呼ばれており、畑山が「ライト級、と付いているのがいい」と憧れるように話していたのを思い出す(畑山は2000年、WBA世界ライト級王座も獲得して2階級制覇)。

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