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いつ上げるべきか?――WBC世界フライ級王者・比嘉大吾

[ 2017年11月1日 11:00 ]

初防衛に成功し、具志堅用高会長(右から2人目)とラウンドガールに祝福される比嘉大吾(左から2人目)
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 【中出健太郎の血まみれ生活】ボクシングのトリプル世界戦(10月22日)から一夜明け、具志堅用高会長がボヤいていた。「コンビニへ行って新聞を全紙買ったんだけど、大吾が1面に全然載ってないんですよ。こんな寂しいことはなかったですよ」。前夜、弟子の比嘉大吾がデビューから14試合連続KO勝ちとなる7回TKOで初防衛に成功したものの、各スポーツ紙の1面は文句なしで村田諒太。こればかりは仕方がない。今後1面を狙いたいのなら村田の前座ではなく、別の興行でメーンを張るしかない。

 比嘉の試合そのものは見応え十分だった。角度やポジションを微妙に変えながら連打の嵐を見舞い、がっちりとガードを固めた挑戦者に膝をつかせ、試合続行不可能に追い込んだのはお見事。だが、野木丈司トレーナーが「現在の能力を10として、10を出せていたら2ラウンドで終わっていた」と話したとおりにベストではなかった。試合直前のアップで汗が出ず、同トレーナーが「判定決着もあるかな」と覚悟したように、計量後の調整に隙があった。最終調整はどんなベテランでも難しいものなのだが。

 今後の比嘉には減量苦の影響も懸念される。試合4日前の予備検診で、フライ級のレベルを超越した胸囲98センチの肉体を見たとき、その凄さに感心するとともに不安も覚えた。これだけ体を鍛え上げる練習と減量を同時進行させるのは、かなり大変な作業なのではないか。野木トレーナーがフィジカルトレとジムワークの両方を指導できる利点は大きく、成長とコンディションづくりの両立については安心できるのだが、試合のたびに大幅な減量を重ねるとダメージの蓄積が心配だ。今年で引退した内山高志氏が37歳まで現役を続けられたのは、普段から試合時に近いウエートを保ち、キツい減量とは無縁だったからだ。

 比嘉は世界王座を奪取した5月の試合の1週間前、パニック症候群に襲われた。今回の試合前こそ症状は出なかったものの、「そうなりそうなところへ行くのが嫌。満員電車や人の多いところとか」とストレスをもたらす状況を好まない。実際に、王座奪取直後には乗車していた電車が線路上で止まって車内に閉じ込められ、「罰金を払ってもいいから窓から飛び降りようかと思った」と明かしている。「減量中にそうなったら水も飲めないし、地獄っすよ」と恐ろしげに語るのを聞き、メンタル面を考えても早めの階級アップが望ましいのではと考えた。

 具志堅会長によると、次戦は指名試合ならば東京で、もう1回選択試合が挟めるのなら地元・沖縄での防衛戦を検討しているという。沖縄での世界戦開催は具志堅会長の悲願であり、個人的には複数階級制覇を狙う選手は指名試合ぐらいクリアすべきとも思う。だが、もしスーパーフライ級で試合ができるチャンスが巡ってきた場合は、飛びついた方がいいのでないか。例えば、今年9月に井上尚弥が米デビューを果たし、来年2月に米国で第2弾が予定される興行「SUPERFLY」に“日本枠”があるのならば、チャレンジしてみる価値はある。「野木さんとは、いずれバンタム級ぐらいでできたらいいな、という話をよくしている」と話す比嘉は、その体が秘めるパワーをまだまだ一部しか開放できていないように見える。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 50代突入から8カ月。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上、スキー、海外サッカーなどを担当。海外サッカー選手では「名言製造器」のズラタン・イブラヒモビッチ(マンチェスター・ユナイテッド)が、指導者では銀行員からセリエAの監督に上り詰めたマウリツィオ・サッリがお気に入り。組織戦術の構築にたけたサッリ監督率いるナポリが今季開幕から好調なのはうれしい。

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