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“第3の日本タイトル”危惧も…地域タイトル・WBOAP王座の在り方とは

[ 2017年7月24日 10:50 ]

4月13日のWBOアジアパシフィック・スーパーフェザー級タイトルマッチで、右目を負傷しながら9回TKO勝ちした伊藤雅雪
Photo By スポニチ

 現在、日本のジムに所属するボクシングの世界王者は史上最多タイの12人いる。それでも、よほどのファンでない限り全員の顔と名前が一致することはないだろう。一般の人にしてみれば、12人の名前を挙げるのも難しいはずだ。

 WBA(世界ボクシング協会)とWBC(世界ボクシング評議会)に加えてIBF(国際ボクシング連盟)とWBO(世界ボクシング機構)が日本国内で認可され、主要4団体で王座を狙うことが可能になり、その分、世界王者も増えた。本来なら喜ぶべきことだが、選手の知名度アップやボクシング人気につながらず、逆にベルトの価値が下がった印象を与えているのは残念だ。「自分は世界王者だけど世界一じゃない」。自身と同じライトフライ級に日本人世界王者が2人いる田口良一(ワタナベ)が話したように、誰が強いのか分からない状況は、かつて「王座乱立は好ましくない」とIBFとWBOを認めなかった日本ボクシングコミッション(JBC)の危惧どおりと言える。

 そのJBCが8月1日付で、WBOの地域タイトルである「WBOアジア・パシフィック(WBOAP)王座」を正式承認すると発表した。WBOAP王者になればWBOランキングに入り世界挑戦の可能性が広がるとして、日本プロボクシング協会が国内でのタイトル戦開催を要望。試合のレベルや正常な運営を懸念したJBCは「様子を見る」と承認しなかったものの、開催自体は認めるという中途半端な方針を取ったため、リング上ではベルトを懸けた戦いが行われながら公式記録ではノンタイトル戦という奇妙な状態が昨年9月から続いていた。だが、いったん開催が許可され、日本人王者が続々と誕生している現状では「やっぱり認めません」と後戻りはできない。かくして、日本人が狙える地域タイトルは東洋太平洋(OPBF)王座、WBOAP王座の2種類となった。

 現状、WBOAP王座のレベルは微妙だ。当初は日本ランキング中位の選手が王座決定戦に臨み、王座に就くケースが相次いだからだ。WBOからは「なぜ地域王者が日本ランキングの下の方にいるのか?」との問い合わせもあったという。地域タイトルは本来、獲得後に防衛を重ね、世界レベルの実力を蓄えて世界挑戦につなげるためのベルト。かつて日本王座の上に位置づけられ、世界へのステップとして欠かせなかった東洋太平洋王座(王者はWBCランキング入り)がそうだったが、近年はレベルの低下により価値が日本王座と同等かそれ以下の「第2の日本タイトル」と化している。このままでは、WBOAP王座も「第3の日本タイトル」となる可能性があり、安易な世界挑戦を防ぐチェック機能が働かなくなる。

 ただし、世界を目指す実力者同士の対戦機会をつくり、ファンの興味を呼ぶマッチメークのためならWBOAP王座を活用するのも悪くはない。現在はスーパーフェザー級で伊藤雅雪(伴流=東洋太平洋同級王者)、ライト級で荒川仁人(ワタナベ)という実力者がベルトを保持し、8月10日には世界再挑戦を狙う小原佳太(三迫)がウエルター級王座決定戦に出場と、役者はそろいつつある。世界王者も同じだが、誰から獲得したか、誰を相手に防衛したか、がベルトの価値を決める時代。重要なのは質の高い試合をファンに提供できるかどうかだ。(専門委員・中出 健太郎)

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2017年7月24日のニュース