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そう言えば大谷の二刀流も最初は批判されていましたね――井上尚弥のスイッチ

[ 2017年5月29日 11:00 ]

サウスポースタイルにスイッチして左を打つ井上
Photo By スポニチ

【中出健太郎の血まみれ生活】おや?と思った。井上尚弥が左構えにスイッチしている。5月21日、有明コロシアムで行われたボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチの第2ラウンド。チャンピオンは前日計量後、左へのスイッチについて「今回はそんなに使おうと思ってない」と話していたはず…と考えるまもなく、左ストレート2発で挑戦者リカルド・ロドリゲス(米国)の膝がガクリと揺れた。

 元々は右利きながら、ボクシングを始めてからサウスポーに変えた選手は大勢いる。相手を幻惑するため、試合途中で右から左へ再三スイッチする選手も多い。しかし、ずっと右構えで戦ってきた選手が、本職のサウスポーのように利かせるストレートを決めたのは国内では初めて見た。確かに、世界戦前の練習ではスイッチする井上尚を何度も目撃し、サウスポーから繰り出す左ストレートや右アッパーの迫力に驚かされた。それでも実際に本番で使うとは。

 3回KO勝ちした試合後の会見で、いの一番に「なぜ使うことにしたのか」と聞いてみた。傷一つない顔の井上尚は「いきなり(質問が)それですか?」と苦笑し、「1ラウンドやって気持ちに余裕があったので」と説明した。一夜明け会見でも「相手との距離感は1分半ぐらいでつかんだ」と話したように、力量差が歴然としていたゆえの“二刀流”解禁だった。

 もったいない、という声を聞いた。試合中にサウスポースタイルで遊べるような相手に勝っても意味はない、もっと強敵と戦わせないと井上尚の強さは証明できない、というものだ。世界中から対戦を避けられる井上尚は今、最もマッチメークが難しいチャンピオン。今回もIBF世界スーパーフライ級王者ジャルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦が決まりかけて実現せず、WBA世界バンタム級王者ザナト・ザキヤノフ(カザフスタン)への挑戦も「1試合待ってほしいと言われた」(大橋秀行会長)との理由で、ロドリゲスとの指名試合に落ち着いた経緯がある。

 次戦は9月に米国初進出を予定しているが、そろそろキャリアの白眉となるビッグマッチに挑んでもいい時期だ。早ければ年末に階級を上げる井上尚自身、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア、帝拳)、カルロス・クアドラス(メキシコ、帝拳)、ファンフランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とメンバーがそろうスーパーフライ級にいるうちに「誰かとはやっておきたい」と希望している。一夜明け会見ではスーパーバンタム級へ上げた場合に「WBAなんか興味ありますね」とスーパー王者ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)にも言及しており、今後への夢はふくらむ。

 個人的には、その夢の舞台を“二刀流”で戦う夢も乗せたい。遊び感覚で始めたスイッチとはいえ、練習での積極的な取り組み方に“遊び”は感じられない。むしろ「サウスポースタイルは苦手じゃないです」という言葉からは、レベルさえ上げていけば力量差がない相手にも使えるとの手応えを感じさせる。どこまで凄い選手になるのか――例えて言えば、大谷翔平を見て抱くワクワク感を、この24歳は持っていると改めて認識した。 (専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう) 2月に50代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。プロ野球は1992年に故郷・千葉へ移転してきたマリーンズのファン。だが、プロ1年目に生で見てスケールの大きさに驚いてからは、個人では大谷翔平(投手より野手)のファン。大谷が離脱し、マリーンズが低迷する今年は、なかなかにつらい。

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2017年5月29日のニュース