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拳の流儀、王者の掟 ボクシングはこんなものじゃない

[ 2017年5月28日 09:30 ]

愛弟子・比嘉大吾を涙で抱きしめる具志堅会長(撮影・長久保 豊)
Photo By スポニチ

 【長久保豊の撮ってもいい?話】遠い記憶の中の異様な光景だ。レフェリーに試合を止められ、泣きじゃくる前王者。挑戦者の王座奪取に場内はしばらくの大歓声、その後は怒声に変わった。

 怒りの対象は当日計量で2キロ超過したチャチャイ・チオノイ(大場政夫の最後の対戦相手。大場亡き後に空位となった王座についた)。再計量ではそこから400グラム落としたものの王座剥奪、試合では戦意なきまま挑戦者にめった打ちにされた。

 74年10月19日付のスポニチ1面ではそれが日本で行われた88回目の世界戦で初の不祥事だったこと、場内からは「サギだ」「もう一度やれ」の声が飛んだとある。

 有明コロシアムでの5試合の世界戦を撮影した。父子鷹の拳四朗あり、25年ぶりの沖縄県出身王者誕生があり、不可解判定があり、八重樫東のまさかがあり、井上尚弥は更に進化した怪物ぶりを見せた。だがオールドファンが気になったのは昨今の世界戦の「軽さ」だ。

 比嘉大吾の挑戦を受けた前王者のファン・エルナンデス。200グラム超過の最初の計量から与えられた2時間の猶予、絞るどころか水を飲んじゃったとか。体重超過による世界戦試合前の王座剥奪は今年に入って3度目。もはや確信犯的な行為がまん延していると疑わざるをえない。

 メディアに登場する度に「ボクはいいから比嘉大吾をよろしく」と頭を下げ続けた具志堅用高会長が激怒するのも無理からぬ話。プロのボクサー、チャンピオンのあり方について信念を持った人だから、愛弟子をこのリングに上げるのは嫌だったのではないか。それでも比嘉のアグレッシブなファイトと具志堅会長の歓喜の涙がこの試合を救った。

 そして今もくすぶるエンダム・村田戦の判定。試合後にWBA会長が自分の採点表を公開して何の意味がある? オヤジ世代には「郡司さん(ボクシング解説者の草分け)の採点」の方がよっぽど重く価値があったと言える。

 遠い日、チャチャイ・チオノイに浴びせられる罵声と歓声が入り交じった中でチャンピオンベルトを巻いた花形進(現花形ジム会長)は、その半年後に不可解な判定で王座を追われる。不満をあらわにした観客たちが会場に居残り、警官隊が出動する騒ぎになった。翌日のスポニチ1面には「あきれ果てた外(国)人2審判」の見出しが躍った。

 有明でエンダムの手が上げられるのを見届けたファンたちは、不満を口にしながらも出口に向かった。その背中が「ボクシングなんてこんなもんだ」と言っているようで嫌だった。

 1975年4月1日の花形進は間違いなく勝っていた。そして2017年5月20日の村田諒太も間違いなく勝っていた。42年経ってもボクシングはこんなものなのか? (写真部長)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれのカメラマン。「55歳で井上尚弥撮るのはきっついわ。あいつ速いんだもん」

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