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長谷川穂積が叩き上げの後輩に与えた“金言”――日本ミニマム級王座決定戦

[ 2017年3月31日 08:30 ]

小西伶弥(左)は3月に世界挑戦した大平剛(花形)ともスパーして実力を磨いた
Photo By スポニチ

 【中出健太郎の血まみれ生活】4月の国内ボクシングは大阪が熱い。世界タイトルマッチが3試合あるほか、東洋太平洋や日本王座の試合も複数予定され、興行が活発だ。最初の世界戦は4月9日にエディオンアリーナ大阪で行われるWBA世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、王者ネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)―久保隼(真正)。久保は3階級制覇して引退した長谷川穂積氏の後継者と期待されている。

 その長谷川氏は、引退後も神戸市内の真正ジムに姿を見せて練習をしているという。久保が「精神的なアドバイスをもらうことが多い」と話すように、ジムの後輩に助言を与えることもあるが、背中を見せるだけでも若手の見本となり続けている。「心構えとかストイックさとか、練習のどの場面を見ても感じるものがある。世界で戦う選手はここまでやるんだと。同じ環境で練習をしていただいて、僕たちにとてつもなく大きな財産を残してもらっている」。そう語るのは、久保の前座で日本ミニマム級王座決定戦に臨む同級1位の小西伶弥(真正)だ。

 23歳の小西は長谷川氏に人生を変えられた一人と言える。テレビで長谷川穂積特集を見てボクシングに興味を持ち、ウィラポンをKOしたV2戦で「カッコええ」と憧れ、「自分もやるなら同じジムしかない」と地元の真正ジムに入門。「自分で電話をかけて、初めてジムに見学に行ったら長谷川さんがいて。鳥肌が立ちました」。真正ジムから出場したアマチュアでは結果を出せず「自分はボクシングに向いていないのでは」と悩んだが、「長谷川さんを見て世界王者が夢になった」とプロボクサーになる決意は揺るがなかった。

 一時は家出を覚悟するほど反対された両親を1カ月ほどかけて説得し、2013年8月にプロデビュー。無事に判定勝ちを収め、最初にジムへ顔を出すと長谷川氏から祝福された。そこで「これから強くなるために大事なこと」とアドバイスを授かったという。

 「大きく分けると、3つありました。自信を持て。心は熱く。常に冷静に。試合へ向けての練習では熱く取り組んで、練習してきたことには自信を持って、それでも試合では熱くなりすぎないように。どれかが飛び抜けたり、足りないとバランスが崩れてしまう、と」

 リング上で激しさも冷静さも見せてきた長谷川氏らしいアドバイスだ。小西はその言葉をスマートフォンに入れ、ことあるごとに何度も見返して成長につなげてきた。

 12戦全勝(5KO)で臨む初タイトル戦では6戦全勝(4KO)の同級2位・谷口将隆(ワタナベ)と対戦する。ともに神戸市出身で同い年。アマチュアの実績では大学でも活躍した谷口が勝るが、小西には長谷川氏と同じ叩き上げの意地がある。「正直なめられていると思うけど、世界王者が絶対目標なので、どんな試合も負けることは許されない」。言葉と体で伝えられた教えを生かすことが、偉大な先輩への恩返しと信じて進む。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)2月に50歳代へ突入。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。陸上では男子マラソンの日本最高記録と女子マラソンの世界最高記録を、いずれも2度目撃(男子=藤田敦史、高岡寿成。女子=高橋尚子、ポーラ・ラドクリフ)。高橋尚子は担当時代のマラソンで全勝と無敵状態。担当を外れると報告した際、泣いてくれた“女王”の優しさに感激しました。

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2017年3月31日のニュース