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V12へ死角なし…山中慎介“神の左”を生む強じんな下半身

[ 2017年1月19日 10:40 ]

ペースを落とさずクロカンコースを走る山中慎介
Photo By スポニチ

 真っ暗な山道を車が上っていく。カーナビの地図では終わっているはずの道をなおも進むと、山の上に開けた目的地に到着した。午前7時前。風の音に鳥の鳴き声が時折混じるだけの静かな空間で、ボクシングのWBC世界バンタム級王者・山中慎介(34=帝拳)らが一斉に走りだした。

 沖縄・国頭村で山中ら帝拳ジムの3選手が17日まで行っていた走り込みキャンプを取材した。早朝はクロスカントリー走、午後は野球場や陸上競技場でインターバル走の一日2部練習。撮影が難しいほどの暗さの中で始まったクロカンは、1・5キロのコース×8周の計12キロを走る。整えられた芝生のコースは走りやすいものの常にアップダウンがあり、特にダラダラと続く長い坂がきつい。それでも山中は安定したラップタイムを刻んで後続を徐々に引き離し、最後の周回ではむしろペースを上げてフィニッシュした。キャンプ終盤で疲れがたまっているのにもかかわらず、57分10秒のタイムは自己最速。さすがだった。

 「走りにボクシングのスタイルが出ますね」。山中が涼しい顔で解説した。12ラウンドを戦い抜くように一定のペースをキープした自身と対照的に、走り込みキャンプ初参加の日本スーパーフェザー級王者・尾川堅一(28)は1周目を6分38秒で走ったかと思えば、次の周回は8分30秒。インターバル走でも最初は若さを生かして飛び出すが、急激に失速する。「試合の時もそうだけど、ちょっとムラがある」というジムの先輩の指摘に、尾川は「疲労がたまっても筋力があればペースは保てる。慎介さんは下半身が大きくなっているイメージ。自分は上半身の力だけで倒していて、下半身の切れがまだない」と苦笑した。

 山中の沖縄キャンプは5回目。タイム更新については「(前回来た)夏と冬ではかなり気候に差があるので」と気にとめていなかったが、「長い坂では粘れているのが分かる。疲れても上体が起きていない。気持ちだけではできないから、肉体的にも強くなっている」と話すように、足腰の強化にはハッキリと手応えをつかんでいる。下半身に粘りが出れば、試合の後半になっても体が浮くことなく「下半身に常に力が入っている状態」のまま、力強い踏み込みから“神の左”と呼ばれる左ストレートを打てる。「自分はスタイル的には下半身のボクシング。上半身で打つタイプではないので」とのコメントにプライドが感じ取れた。

 約6年間、山中の体を見ている中村正彦トレーナーは、キャンプ最後のクロカンを見届けたあと「慎介はこの5年間で一番いい」と状態に太鼓判を押した。昨年9月のアンセルモ・モレノ(パナマ)との再戦に7回TKO勝ちし、11度目の防衛に成功。春に予定する12度目の防衛戦をクリアすれば、具志堅用高が持つ13回連続防衛の国内記録に王手がかかる。「数字には本当に興味がないんですよ」と言う山中だが、地味ながら凄みを感じさせたキャンプの走りからは、負ける姿を想像することができなかった。(記者コラム・中出 健太郎)

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2017年1月19日のニュース