100万円もいいけれど、生き残りを懸けた戦いだからこそ激闘が約束される件
【中出健太郎の血まみれ生活】「賞金100万円獲得!」とアナウンスされれば、やはり使い道が知りたくなる。控室で「定番の質問ですが」と断ってから聞くと、そのプロボクサーは「とりあえず貯金して…」と答えたあと、「石本選手とやるためにも使っていきたい」と付け加えた。10月22日、後楽園ホールで行われた「最強後楽園」のスーパーバンタム級を制し、MVP賞金の100万円を手にした久我勇作(25=ワタナベ)だ。
正式名称は「最強後楽園ミリオンマッチ」。かつて「A級ボクサートーナメント」と呼ばれた賞金大会で、優勝者には日本王座への挑戦権が与えられ、1986年(昭61)に開催された第1回大会ではレパード玉熊、高橋直人、飯泉健二らが優勝した。しかし、96年に王座挑戦権がなくなり、有力選手の参加が減ったこともあって日本プロボクシング協会が2008年に大会を再編。各階級に最大4人が出場する「最強後楽園 日本タイトル挑戦権獲得トーナメント」としてスタートしたが、15年からワンマッチ形式に変更され、今年は4階級(1試合は中止)で争われた。
昨年12月に石本康隆(35=帝拳)との日本スーパーバンタム級王座決定戦で敗れ、現在同級2位の久我が石本との再戦を実現させるためには「最強後楽園」での優勝が不可欠だった。日本と東洋太平洋で同級1位にランクされるジョナタン・バァト(36=フィリピン、カシミ)を相手に1ラウンド、左フックでダウンを奪う幸先良いスタート。4ラウンドには「体ごと入ってくる相手に合わせるように練習していた」という右ボディーで再び倒し、テンカウントを聞かせた。石本が視察に訪れていたのを知ったのは試合後。「石本さんも強くなっているけど、僕がそれ以上強くなればいい」と闘志を燃やした。来るべき再戦へ向け、100万円は体のケアなどに使うはずだ。
この日はライトフライ級で久田哲也(32=ハラダ)、スーパーフェザー級で杉田聖(26=奈良)が優勝。久田は山口隼人(27=TEAM 10COUNT)を左右のフックで流血TKOに追い込み、3度目の「最強後楽園」挑戦で念願のタイトル挑戦権を手にした。杉田は4月に日本王者・尾川堅一(28=帝拳)に敗れてから半年ぶりの再起戦で、東上剛司(36=ドリーム)と激しい打撃戦を展開。終始伸ばした左のリードがベテランの執念を上回り、3―0の判定勝ちでMVP候補にも挙がった。
今回出場したのは前途洋々の若武者ではなく、いずれも敗北して壁にぶち当たった選手たち。勝てば王座への道が開け、負ければキャリアに影響する一戦とあり、別の意味で日本タイトルマッチ以上の緊張感が後楽園ホールを覆い、3試合全てが好勝負となった。ベルトが懸からず試合数も少なかったため観衆が1000人を割ったのは何とももったいなかったが、日本プロボクシング協会では来年、実施階級を最初から制限せずに試合数を増やす意向という。究極のサバイバルマッチを何試合も見るのは精神的にきついが、見応えのある興行になることは保証できる。(専門委員)
◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。
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