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今季の東洋太平洋タイトルマッチで日豪戦に3連敗となった件

[ 2016年10月23日 11:40 ]

東洋太平洋スーパーミドル級タイトルマッチで負傷判定負けした松本はコーナーで肩を落とす
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 【中出健太郎の血まみれ生活】サッカーのW杯アジア最終予選でオーストラリアと引き分けたハリルジャパンへの風当たりが強い。アジア王者(15年アジア杯優勝国)相手に敵地での勝ち点1は悪い結果ではないが、ボール支配率34パーセントと主導権を明け渡したような戦いぶりが批判されている。ただ、かつては前線への放り込みばかりだったオーストラリアも最近はパスサッカーを指向し、世代交代を進めるなど成長が著しい。同じアジア地区ながら、アジア人を体格で上回るライバルの存在は世界(W杯)を目指す上で格好のベンチマークとなる。

 実はボクシングでも、世界を目指す日本人選手にとって高い壁となっているのがオーストラリアだ。WBC(世界ボクシング評議会)と提携している地域タイトルで、世界挑戦の資格がある東洋太平洋(OPBF)王座を今年になって奪われた日本人はいずれも中重量級の3選手。相手は全員がオーストラリア人選手だった。6月にミドル級王者の西田光(川崎新田)がドゥワイト・リッチーに、7月にウエルター級暫定王者の高山樹延(角海老宝石)が王座統一戦で正規王者ジャック・ブルベイカーに、それぞれ判定負け。10月17日にはスーパーミドル級王者の松本晋太郎(ヨネクラ)がジェイド・ミッチェルに10回負傷判定負けで王座を失った。

 3選手はいずれも内容で完敗だった。高山は11回に起死回生のダウンを奪い、判定も1―2と割れたが、手数では圧倒されて10回にはセコンドがタオル投入を覚悟するほどダメージを負っていた。西田と松本はともに相手のアウトボクシングに対応できずに序盤から一方的に打たれ続け、手を出せないままラウンドを重ねて大差の0―3判定負けを喫した。「相手が強かった」「自分の力不足」。3選手のコメントも共通していた。

 松本を指導する嶋田雄大トレーナーの感想が興味深かった。「同じ体重なのに軽量級と重量級のようなスピードの差が出てしまった」。ミッチェルは速い出入りでパンチを当て続ける一方、常にステップを踏んで動き回り、松本に連打を許さなかった。西田、高山、松本は体が頑丈で打たれ強く、一発で倒すパンチ力も持っており、中重量級らしいファイトをする。だが、オーストラリア人にとっては、このあたりの階級はまだスピードを生かせる“軽いクラス”なのだろう。3試合とも強さよりうまさが光るボクサータイプが、鈍重な日本人選手をスキルで上回ったという印象だ。

 ハリルジャパンは今もオーストラリアの強みである高さへの対策を行った上で、まだパスサッカーの精度が高くない相手を守備で封じ、W杯へ望みをつないだ。ボクシングは国内の中重量級の選手層が薄く厳しい面はあるが、東洋太平洋王座でオーストラリア勢の壁を破らない限り世界は見えてこない。試合の主導権を握られた「スピード」への徹底した対策が、突破口を開くカギとなる。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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