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負けても赤穂のファンを増やす“男気あるマッチメーク”

[ 2016年10月17日 11:05 ]

赤穂亮
Photo By スポニチ

 マッチメーク次第で、ノンタイトル戦でも面白いボクシング興業は打てる。10月11日に後楽園ホールで行われた横浜光ジムの興業は、まさにその典型だった。セミファイナルの8回戦は高橋竜平(横浜光)―武田航(角海老宝石)という、14年と15年のバンタム級全日本新人王対決。13年10月の武田のデビュー戦で引き分けた因縁の対決でもあったが、高橋がトリッキーな動きで武田の強打を封じる攻防の末に、3―0の判定勝ちで無敗の新鋭に初黒星をつけた。

 そしてメインは、2度の世界挑戦経験を持つ元世界ランク1位・赤穂亮(横浜光)と12勝(6KO)1敗2分けのノーランカー勅使河原弘晶(輪島S)による10回戦。バンタム級で日本ランク入りの経験を持つ勅使河原は体格で赤穂を上回り、右ストレート、左フックとも倒す力を持つ。「ノーランカーの実力じゃない。日本ランカーが対戦を避けるだけはある」と実力を評価する赤穂にとっては、勝っても世界ランクが得られるわけではなく、敗れれば3度目の世界挑戦の可能性が遠のく“ハイリスク・ノーリターン”な一戦だった。

 危険な相手を選んだのは、横浜光ジムの石井一太郎会長。プライドを刺激される対戦指令をあえて受けた赤穂は「これに勝てば“次は好きな相手を呼んでやる”と会長に言われていた」という。一方で、今回の試合では自身の存在価値を証明する必要もあった。昨年8月のWBO世界バンタム級王座決定戦ではプンルアン(タイ)に敵地で2回KO負け。後頭部へのパンチから倒されるという不運はあったものの、その後は12月に予定されていた再起戦を減量苦で棄権し、今年5月の復帰戦も体調不良で消化不良の判定勝ちと、評価を落とし続けていたからだ。

 勅使河原が「赤穂さんを引退させる」と試合前から吠え、ファンの注目を集めた一戦は赤穂の2―1判定勝ち。勅使河原の右は何度もヒットしたが、30歳のベテランは飛び込んでの左フックや要所で叩き込むボディーで26歳のスタミナを削り、最終回にローブローで減点されながらも勝ち名乗りを受けた。一見すれば世界再挑戦は厳しいと思わせる結果で、「倒さなきゃダメなのは俺自身がよく分かっている」と赤穂も反省したが、「ここからは倒されても負けても立ち上がって、諦めないでやろうと思う」と持ち前の闘争心に衰えはないことをアピールした。

 戦いたい相手は、もちろんプンルアンだ。現在は世界王座から陥落し、赤穂自身も日本バンタム級2位にランクされているが、「日本タイトルに興味はないので。(現日本同級王者の)益田健太郎(新日本木村)との試合を見たいですか?」と記者に問いかけ、首を横に振らせると満足そうにうなずいた。「男気あるマッチメークと言われるのはボクサー冥利に尽きる。(後楽園)ホールが沸くなら、俺らしくていいんじゃない?」。負けても自分を応援する人がなぜか増えると豪語する理由が、何となく理解できた。(中出 健太郎)

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2016年10月17日のニュース