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国歌~選手コール~ゴング…美しい流れからの決闘を

[ 2016年8月15日 12:30 ]

 アスリートたちが表彰台で笑みを浮かべ、感激の涙を流す。才能や努力や挫折、ちょっとした不運や幸運などがメダルに凝縮された表彰式は、どんな結果であろうと厳粛に見守ろうという気分になる。国旗掲揚や国歌演奏が演出する場内の雰囲気も大きいだろう。それが日の丸だったり、君が代なら、自分がその競技や選手と全くの無関係でも、日本人であることに勝手に誇りを感じる。

 スポーツでは国際試合の開始直前に国歌が演奏されるのも通例だ。ラグビーのテストマッチやボクシングの世界タイトルマッチでは、気持ちが高ぶり、歌いながら涙する選手もいる。記者は国歌演奏時、記者席で起立したまま選手の表情などを観察しているが、かつてラグビーW杯を取材した際、大観衆が詰めかけた完全アウェーのスタジアムで君が代が流れたときは、思わず声を張り上げて歌ってしまった。某元首相のように、「どうしてみんなそろって国歌を歌わないのか」と強制されると反発したくもなるが、声に出るときは自然と出るものである。

 ボクシングでは選手の入場後、両国国歌~リングアナによる選手コール~開始ゴングという流れが好きだ。個人的にはメキシコ国歌がお気に入りで、あの勇ましい曲が流れ始めると、さあタイトルマッチだという気分にさせられる。13日には女子のダブル世界戦が埼玉県草加市で行われたが、市民会館で観衆700人という小規模興行でも、試合前にはスクリーンに国旗が映され、国歌が演奏された。今も昔も、試合前の大切な儀式であることに変わりはない。

 ところが最近では、試合直前に国歌が流れない世界戦も見られるようになった。複数世界戦の開催時、最初のタイトルマッチの前に出場選手の国歌をまとめて流したケースがあったほか、前座の第1試合が始まる前に国歌が全て流された例もあった。中継テレビ局の要望とみられ、放送枠が限られている関係で選手入場後は時間をあまり取らずに試合に入りたいようだ。当然、第1試合直前などは大半の観客が来場しておらず、場内はガラガラ。厳粛な雰囲気も盛り上がりもあったものではない。国旗も国歌も気の毒に映った。

 ある名門ジムの会長は「リング上で君が代が流れると、選手もセコンドも“やるぞ”と気持ちが入るのに」と嘆いた。7月のIBF世界スーパーバンタム級王座決定戦でも、古口ジム創設20年で愛弟子の和気慎吾を世界へ送り出した古口哲会長が、君が代に涙を流していた姿が印象的だった。8月下旬から9月中旬まで国内では立て続けに世界戦が行われるが、国歌~選手コール~ゴングという美しい流れからの決闘を数多く見たい。(中出 健太郎)

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2016年8月15日のニュース