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ボクサーに引き際の美学はない…傷つき、敗れてもあきらめない男たち

[ 2016年3月1日 14:40 ]

2011年10月、ラスベガスで行われたWBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチでラファエル・マルケスに判定勝ちを収め、7度目の防衛に成功した西岡(AP)

 プロボクサーに「引き際の美学」という言葉は通用しない。実際に崖っ縁から頂点まではい上がった男を何人も見てきたからだ。その最たる例が、WBC世界スーパーバンタム級王座を7度防衛した西岡利晃氏だ。

 速いステップワークと左拳を武器に日本王者まで上り詰めた西岡氏は、20代中盤~後半で4度の世界挑戦に失敗。アキレス腱断裂などの不運にも見舞われたが、世界初挑戦から8年がたち王座奪取に成功した。ラスベガスでの海外防衛にも成功するなど引退までに偉大な足跡を残した。昨年末に3階級制覇した八重樫東も、どん底からはい上がった。14年12月に世界戦で2連続KO負けすると、控室では去就について質問する報道陣に「皆さんどう思います?」と問いかけたほどだ。

 一度諦めればゲームセット。だが、成功者は夢を諦めなかった。誰に何を言われようが、だ。昨年11月にラスベガスで最強挑戦者バルガスに敗れながら日米で年間最高試合に選ばれるなど評価を高めたWBC世界スーパーフェザー級前王者・三浦隆司にもWBA世界同級王者・内山高志にボコボコにされた過去がある。ボクサーは“ゾンビ”のように何度でも立ち上がり、光を求めるのだ。

 しかし、一体どこにゴールがあるのだろうか。プロはアマチュア選手のように五輪を一つの区切りにすることもできない。王者のままボクシングを引退する幸せ者は、もう出てこないだろう。世界王者のまま事故死した「永遠のチャンプ」WBA世界フライ級王者・大場政夫のように。負ければ引退なのか、次の試合が最後なのか、ボクシングの“魔物”に憑(つ)かれた男たちは、ひたすら勝利だけを信じてサンドバッグを叩き続ける。 (宗野 周介)

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2016年3月1日のニュース