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現役復帰の40歳・佐々木基樹“やらなかった後悔”こそが後悔

[ 2016年2月16日 08:35 ]

6回KO勝ちして勝ち名乗りを受ける佐々木基樹

 16年ぶりにボクシング担当に復帰した。かつて取材した選手はジムの会長やトレーナーに転身していたが、まだ現役の選手が2人いた。1人は辰吉丈一郎。もう1人が今月6日、2年9カ月ぶりに現役復帰した40歳の元東洋太平洋スーパーライト、ウエルター級王者・佐々木基樹(帝拳)だ。

 佐々木を取材したのは協栄ジムからプロデビューし、98年の東日本スーパーライト級新人王に輝いた頃だった。早大教育学部に在学中で、金髪を逆立てた姿を「スーパーサイヤ人」と書いた。勝った後にリング上でムエタイのポーズをしたり、自身の生活を「昼は枕草子、夜はスパーリング」と表現するなど当初から言動は目立っていた。その後は日本スーパーライト級王座に就き、帝拳ジムへ移籍して東洋太平洋2階級制覇。世界挑戦に2度失敗し、13年5月には日本・東洋太平洋ライト級王座に挑んで敗れ、引退していた。

 担当に復帰して訪れた帝拳ジムで、佐々木が現役復帰すると聞かされて驚いた。「(本田明彦)会長も私も反対したんですよ」と長野ハル・マネジャーが見せてくれたのは、佐々木がジムへ提出した“決意文”。A4版9枚の文章に、引退後の葛藤がつづられていた。

 「試合後に短期で出る旅が楽しみだった」「引退したら思う存分、旅をしよう」「旅に出た。世界一周旅行」「…退屈するには数週間もあれば十分だった」「旅すらボクシングのためにしていたことに気づいた」「あれほどつまらなかったロードワークが、やめられないものになっていようとは」…。日本ライト級王座決定戦を見て「あれなら俺の方が強いんじゃないか」と考え、「人が自分の人生を振り返って一番多く後悔している事実は“やらなかった後悔”である」と結んでいた。

 国内の規定ではプロボクサーの定年は37歳。ただし、チャンピオン経験者は最後の試合から3年以内なら年齢制限が適用されず、佐々木も現役復帰が可能だった。「どうしようもない試合をするぐらいだったらKOされて負けた方がいい」と臨んだリングでは6回KO勝ち。ジャブから右へつなげる速さ、トリッキーなスタイルは健在だったが、ノーランカーを倒すまで時間がかかった内容には正直、“今後は厳しいかな”と思った。もちろん、自分の実力は佐々木自身が一番理解している。「若い頃と違って、世界などと絵空事を言うつもりはない。でも、日本、東洋なら射程圏にあると思う」。現実的な目標として、東洋太平洋王座3階級制覇となるライト級での戴冠を掲げた。

 それにしても、人生=ボクシングというタイプには見えず、文筆業でもやっていけそうな佐々木が、なぜそこまでリングにこだわるのか。「リアルで言うと“中毒”ですよ。でも、それを夢とかいう言葉にできるんで、ボクシングジャンキーって何か許されていると思うんです。僕に言わせれば、カズだってサッカージャンキーですよ」。健康面を考えれば、40歳での現役復帰には賛成できない。それでも、夢ではなく現実を見極めた上で「やれることをやっているだけ。自分が決断したもに対しては、決して後悔は残らない」と言われると、次戦も見てみようかという気になってしまう。(中出 健太郎)

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2016年2月16日のニュース