対照的なボクシング人生…河野VS興毅 勝敗を分けた相手への敬意
日本人対決となったボクシングのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが16日に米シカゴで行われた。負けた挑戦者の亀田興毅が試合後に突如引退を表明したため、世間の注目はそちらにばかり集中してしまったが、勝者は王者の河野公平だった。
今回初めて名前を覚えた方も多かったのではないだろうか。若くから注目を集めて知名度抜群の興毅とは対照的なボクシング人生を歩んできた。
東京・東亜学園高時代は陸上部で、補欠の長距離ランナーだった。たまたま書店で目についた「6カ月でプロボクサーになれる」という入門書を読んでボクシングに目覚め、ワタナベジムに入った。だが、デビュー戦でいきなり黒星。渡辺均会長は「スローなボクシングをしていて、4回戦止まりと思ってました」と振り返る。それでも「とにかく真面目に練習に来ていた」という。世界のベルトを手にしたのは3度目の世界挑戦だった32歳の時。遅咲きの苦労人なのだ。
興毅がバンタム級王座を返上し、スーパーフライ級に下げて4階級制覇を狙うと決めた時、他の団体の世界王者には目もくれず、唯一ターゲットにしたのがWBA王者の河野だった。それはイコール「おいしい相手と思われている」(河野)。王者としては決して名誉なことではない。ただ見方を変えれば、名前を売る大きなチャンス。逃げることなく、対戦実現にこぎつけた。
試合が決まった直後に河野に聞いた、興毅への評価が意外で印象に残っている。私は多くのボクシングファン同様に興毅の実績を心の中では認めていないと思っていたが、河野はこう言った。「“亀田は弱い”と言う人も多いけれど、僕は普通に強いと思う。子供の時からボクシング漬けの生活を送って、注目される中でプロで10年以上戦っている。3階級制覇なんて、やりたくてもできるものじゃない。強いですよ」。散々挑発され、小ばかにされても、6歳下の男に敬意を持っていた。
今回、そんな相手を思う気持ちが勝敗を分けたのではないだろうか。興毅は本来のアウトボクシングを捨て、倒せると思って序盤から前に出て、カウンターを食らってダウンした。油断があったと思う。河野は得意の打ち合いに持ち込み、最後は武器である手数で上回った。自身のスタイルを貫いた。勝利の女神は遅咲きの苦労人にほほ笑んだ。
興毅は引退を表明し、今後誰も拳を交えることはできない。「亀田興毅に土をつけたただ一人の日本人」。地味で目立たない王者だった河野に1つ肩書が加わった。 (柳田 博)
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