初挑戦惨敗から4年…八重樫 KOで悲願の初戴冠!
WBAミニマム級タイトルマッチ12回戦
(10月24日 東京・後楽園ホール)
八重樫東(28=大橋)が2度目の世界挑戦で王者ポンサワン・ポープラムック(33=タイ)を10回TKOで下し、初戴冠を果たした。中盤以降の激しい打ち合いでは強打のポンサワンをパワーでねじ伏せ根性でベルト奪取。岩手県勢初の世界王者となり、師匠の大橋秀行会長(46)が93年の現役時代に失った同じベルトも奪還した。所属する大橋ジムでは元WBC世界スーパーフライ級王者の川嶋勝重氏(37)に続く2人目の世界王者誕生で、日本人男子の現役世界王者は7人になった。
激しい打ち合いの中でも勝利への執念だけは失わなかった。8回、八重樫はラッシュでポンサワンをKO寸前にまで追い込んだが、逆に右カウンター一発でぐらついた。あまりの衝撃に心が折れそうになったが、セコンドの大橋会長から「(長男の)圭太郎のためにもコーナーに帰ってこい」という言葉が届くと、踏ん張った。強打のポンサワンを気持ちで上回り、攻勢に出る。意地と根性が交錯した死闘は10回に決着がついた。こん身の力を振り絞って猛攻をかけると、王者は完全に戦意を喪失。割って入ったレフェリーがTKO勝ちを宣告し、岩手県出身として初の世界王者が誕生した。
八重樫はキャンバスに大の字になって喜びを爆発させ、師匠の大橋会長が、家族がリング上で歓喜の輪をつくった。「ベルトよりも勝ったことがうれしい。チャンピオンは本当に強かったけど、圭太郎や(長女の)志のぶ、家族のおかげで勝つことができた。少しは(ジムの先輩の)川嶋さんに近づけたかな」その目にはうっすら光るものがあった。
アマチュア2冠の実績を引っ提げてプロ入りしたものの、王道は歩めなかった。07年6月にはわずか6戦のキャリアでイーグル京和の世界タイトルに挑戦。しかし、史上最短キャリアでの戴冠の夢もむなしく、顎をへし折られ惨敗し、苦悩の日々を続けた。プライドをズタズタにされながら再起を目指したが、日本王座2度目の防衛に成功した昨年5月「ケガも多いし、結婚するのなら」と会長から引退を勧告された。だが、揺れる八重樫の背中を押したのは「もっとボクシングをしている姿を見たい」と語る同じ岩手県出身の彩夫人(27)だった。「決して諦めてちゃいけないんだな」。巡ってきた2度目の世界戦。最愛の人のために、最高の舞台で男になった。
新王者は「実感はないけど、今は疲れたので休みたい」と語るが、大橋会長は早くもWBCの同級王者・井岡一翔との王座統一戦のプランをぶちまけた。挫折をバネに栄光をつかんだエリートが、7戦目で頂点に立った新星に挑戦状を叩きつけた。
◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手県北上市生まれの28歳。岩手・黒沢尻工高でインターハイに優勝し、拓大在学中に国体で優勝した。05年3月プロデビュー。06年4月に日本人最速タイの5戦目で東洋太平洋ミニマム級王座を獲得。07年6月に7戦目でWBC世界ミニマム級王者・イーグル京和に挑戦し12回判定負け。身長1メートル61、リーチ1メートル62、右ボクサーファイター。
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