球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

MLB 7月上旬開幕へ“癒やし”どころではない台所事情

[ 2020年5月24日 06:00 ]

 MLB(大リーグ機構)が7月上旬の開幕案を選手会に示し、合意に向けた話し合いが続く。選手会の要望は感染予防強化の安全対策ばかり。時節柄、お金の話はファンに支持されないとの“配慮”だ。MLB案はファンには「?」の変則試合形式だが、トランプ政権も連邦議会も州や市政庁も開幕に前のめりだ。「無観客」でもなんでも大リーグが動けば、苦渋の決断で再開した50州の経済活動を多少は活気づけるはずとの思いからだ。

 ところがファンは冷静だ。ニューヨークタイムズ紙があるメッツファンの声を伝えていた。メ軍の球場シティフィールド近くで生まれ育った生粋のメ軍党。シーズン20試合は球場観戦、行けない試合はテレビでカバーだが「今は野球の時ではない。貧しい人たちへの食料品の配達活動をしているが、野球が人々の癒やしになるとは思えない」というのだ。「病院に押し寄せる感染者と遺体収容所にあふれる死者を減らすことが必要だ。医療従事者たちは倒れそうだし、職を失う人たちの数も減らさなければならない。そうなって初めて癒やしを求める気分になれると思う」。リアルな声だ。

 気が付いたのは、他の競技に比べて野球は社会的危機の時に「復活の先頭に立つ」とか「不屈のシンボル」と旗振り役で多用される。競技の歴史が長い、試合数が多く、メディアとの結びつきが強く、日常に溶け込んでいる、などが理由だろう。ロマンチックかつ、センチメンタルな(だから面白い)物語性の強い競技なのも利用しやすい。

 無理押しの開幕案はフロント幹部や監督、コーチの減俸、職員休職、解雇の球団続出と同調している。球団の台所に火が付いた。“癒やし”どころではない。ロックダウン(都市封鎖)解除しかなかったのだ。(野次馬)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る