球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

ビデオ判定でも分からぬ場合は…“親指の規則”

[ 2018年10月21日 05:30 ]

 来週はいよいよワールドシリーズ。王座決定の舞台を目指す一連のポストシーズンでは、レギュラーシーズンに比べてビデオ判定が多かった。重要な試合だ。監督は微妙な判定に「チャレンジ」する。審判員も判定の参考にとビデオを使う。ボールが先か足が早かったか、ベースをめぐる数センチの攻防など、クローズアップ・スロービデオが大活躍だった。

 高性能機器の導入で審判員と監督の論争が消えたのは残念だが、ビデオを見ても判断が難しいプレーもあった。ア・リーグ優勝決定シリーズ第4戦、アストロズ・アルテューベの「幻の2ラン」。検証映像公開がなかったら、あれほど簡単に「守備妨害で打者アウト」で決着できたかは疑問だ。しかし、ビデオ検証でも結論が出せない事例も多いはず…。

 大リーグ機構(MLB)の集計によると今季のレギュラーシーズンで1400回のビデオ検証が行われた。審判員の判定が正しいと「確認」されたのは271、審判員が失敗し判定を覆したのが679。では残りの450はどうなったのか。ニューヨークの中央センターに送信される球場のさまざまな位置に置かれた12台のカメラ映像を精査するのだが、それでも判定を確定させる決定的映像が見つからなかったのだ。

 この場合は「親指の規則=ルール・オブ・サム」で処理するという。昔英国では、ご亭主が奥さんを叩く棒の太さは親指(サム)の太さまでが許容範囲――という怪説が語源で、英和辞典は「大ざっぱな指針、経験則」と訳す。映像でも確認できないプレー判定の経験則は「公認・野球規則」に定める「審判員の判断に基づく裁定(ジャッジ)は最終のもの」に戻るしかない。審判員が最初に下した判定で確定させたのだ。

 野球は失敗のスポーツ、失敗を認めるセーフティーネットを規則の柱にした昔の野球人の大人の知恵に感心する。 (野次馬)

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