球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

時代の最先端を生きた「心のコーチ」ラビザ氏

[ 2018年8月5日 05:30 ]

 あらゆる競技で選手の心のケアをする専門家の進出が盛んだ。大リーグでは30球団中26球団が「心のコーチ」を置いている。

 そんなメンタル・コーチの草分け、ケン・ラビザ氏が7月9日に70歳で亡くなった。カブスのジョー・マドン監督は、エンゼルスのマイナーのコーチ時代の80年代からラビザ氏と親交を結んできた。そしてレイズ監督からカブス監督に転じた15年にメンタル・コーチに迎えた。「彼は時代に先行しすぎた。やっと時代が彼に追いついた」と惜しんだ。連敗に沈むチームの活気づけに、動物タレント会社からペンギンや大蛇を借り出し選手と遊ばせた。選手にピエロ並みの派手な服を着せ、自分もピンクのスーツに半ズボンで遠征移動…こうした手腕の源泉がラビザ氏。陰の参謀と見て良さそうだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙に特集記事が掲載された。ブレーブスの捕手カート・スズキの大学時代の思い出話は、マドン監督の奇抜な作戦にそっくりだ。負けが続いた野球部のミーティングに、心理学のラビザ教授が参加した。選手の話を聞いた後、静かな口調で言った。「最後の試合を忘れたまえ。それから最後のプレーも、弁解も」。そしてグラブに収まる大きさの便座の模型を渡した。「失敗の打席、ミスした投球、エラー、全てをこれに流し去れ。大切なのは次の1球への集中、との教えですね」。便器の模型はスズキ主将によってベンチにいつも飾られたという。

 多くの選手、コーチのラビザ氏への印象が「素晴らしい聞き手だった。彼に話すと心が軽くなった」。陰の名コーチの人柄を語っている。 (野次馬)

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