球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

機械化で奪われる審判員の「仕事」

[ 2018年1月21日 05:30 ]

 大リーグ選手会は、機構(MLB)が今季導入を決めているピッチ・タイム(投球間隔)20秒とマウンド上の投手のもとに監督、コーチ、選手が行くのは1回、2度目は自動的に投手交代の規則変更に反対の意向をMLBに伝えた。選手会の同意なしの変更も可能だが、MLBは月末のオーナー会議を待つという。

 試合時間短縮のピッチ・タイム導入は10年以上前から浮き沈みしてきた。当時、猛反対したのは審判員組合だった。「我々は時計の見張り役ではない。グラウンド内を統制するのが我々だ」。審判員の気骨だったが、多くの仕事が最新機器に奪われるのが時代の流れ。審判員も例外ではない。

 折から選手たちから「神」と呼ばれた審判員の訃報が伝えられた。ダグ・ハーベイ氏(享年87)、1世紀を超える大リーグ史上10人しかいない殿堂入りの名審判。「全ての審判員が目指す手本だった」と、ロブ・マンフレッド・コミッショナー。判定は明確、抗議には冷静に対応した。31年間、4673試合で退場者はわずか58人。抗議が少なかったのだ。

 「球審3度目の試合が忘れられない」と引退した92年に語っている。「9回2死満塁でフルカウント。打者はスタン・ミュージアル(カージナルスの名外野手)。次の一球がプレートに届く前に、右手を上げ“ストライク”と叫んだ。ボールは変化し外角に大きく外れた。体が凍り付いた」。静かに打席を外したミュージアルは新人審判には目を向けずつぶやいた。「君がどこで野球をやったのかは知らないが、ベースの幅17インチ(約43・2センチ)は同じはずだ」。ファンに誤審を気づかせずに注意してくれた大打者。以後ハーベイ氏は、派手な素早い判定よりプレーを見極めた“正確な判定”を誓った、という。

 「神」と呼ばれる審判員はもちろん、こんな挿話も機械相手ではもう無理になった。 (野次馬)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る