桜井克也の球界“人”筆書き

オリックス・仰木元監督(下) 人としての偉大さ再認識した、名古屋駅ホームでの一場面

「即断即決」に加え、常人には思いもよらない「引力」。やはり仰木監督は希代の名将でした
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 2005年6月16日。ナゴヤドームでの中日戦、3戦目の試合後、仰木監督は大阪へ帰るため、名古屋駅の新幹線ホームにいました。初戦は抜擢したガルシアの活躍などで快勝したものの2、3戦目は惜敗。それでも当初の思惑通り、17勝16敗3分けの貯金1、勝率5割以上で交流戦を終えたこともあり、敗戦後とはいえ穏やかな表情でした。

 最終近くの時間帯で人影もまばらなプラットホーム。翌日からは試合のない日が続くため、私を含めた担当記者は監督に同行し、翌日以降のネタを仕入れようと必死でした。新幹線到着までの待ち時間。記者の輪の中心にいた監督が突然、血相を変えて大声を発しました。

 「一体、何をしとるんや!」

 視線の先にはホーム下に転落した中年男性の姿。何度もホームに上がろうと試みていましたが、酒に酔っているのか、足取りもかなり怪しい状態でした。新幹線ホームの高さは1メートル25程度。列車到着まで、まだ時間はありましたが、それでも一刻を争う事態には変わりありません。まずは駅員を…と慌てるスタッフ、記者を尻目に監督は早足で歩み出しました。

 男性の元へ向かい、線路上に向けて両手をさしのべます。しっかりと男性の手を握ると周囲の何人かの助力を得て、見事にホーム上へと引き上げました。70歳とは思えないほどの力。「まったく、危ないやないか…」と独りごちて、駆けつけた駅員とすれ違うように悠然とその場を去って行きました。

 当時、監督付広報で現在は営業部第1グループ長を務める岸田光二さんの脳裏にも当時の出来事は鮮明に残っていました。

 「何よりビックリしたのが、よく見えたな…ということですね。普通だったら、ホームの下ってあまり見ていないですよね。実際、その場にいた誰ひとり気付いていなかった。“視野が広い”だけでは説明が付きません」

 人並み外れた視野の広さというよりは、天性の危機察知能力でしょうか。ともあれ、得体の知れない力がその場で働いたことは間違いない。中年男性は仰木彬という人物に助けられたこと、もっと言えばホーム下に落ちたことすら覚えてないかもしれません。即断即決でガルシアの野球人生を救った男は、今度は物理的に人命をも救ったのです。

 仰木彬監督はこの年の12月15日、惜しまれつつこの世を去りました。わずか1シーズンの担当ながら、様々なことを勉強させてもらいましたが、その中の一つが「名将の条件」です。まず何事にも「即断即決」で、それがかなりの確率で成功するということ。そしてもう一つは自らの意思とは別に、様々な人の運命を左右する局面に数多く出くわすということです。ガルシアや助けられた中年男性のようなケースだけではなく、出会いによって運命を狂わされた人もいるかもしれません。ただ、その全てをひっくるめて、人を引き寄せる強烈な「引力」を持つことが条件でしょう。13年前の出来事を思い出すたびに、希代の名将の偉大さを再確認します。

[ 2018年6月14日 16:25 ]

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