日めくりプロ野球 7月

【7月23日】1968年(昭43) “恋人”は予感していた 江藤慎一 球宴サヨナラ本塁打

[ 2010年7月1日 06:00 ]

 【全セ2―1全パ】カウント0―3でも“待て”のサインは出なかった。4球目、阪急・石井茂雄投手のスライダーが真ん中に入った甘い球を中日・江藤慎一左翼手を逃さなかった。
 狭い川崎球場だったが、広かったとしても関係ない。超満員の左中間スタンド中段に突き刺さったサヨナラ本塁打。球宴史上2度目の劇的勝利に「いい気持ちじゃ!こんな会心の当たりのホームランは今年初めてじゃ!」と興奮する江藤。「だから言っただろ。きょうは車が2台必要だって。1台はオレが乗って帰る、もう1台は賞品を詰め込むんだ」とどこまでも舌は滑らかだった。

 「一発打つよ」。延長10回、先頭打者で打席に江藤が入ったとき、球宴に打者の調整のため呼ばれた、巨人・野口勝治打撃投手は独り言のようにつぶやいた。かつて中日に在籍し、江藤の“恋人”ともいわれた専属のバッティングピッチャーだからこそ、予感がした。
 「石井投手のようにスリークォーター気味からくる横の変化は江藤さんが得意中の得意にしているタイプ。スライダーが甘くきたらもっていくよ」。球種までそのものズバリ言い当てた“恋人”は、静かに笑みを浮かべ江藤が手荒い祝福を受けるのをネット裏の記者席の一角で目に焼き付けていた。
 本塁打に始まり本塁打で終わった珍しいオールスター第1戦だった。初回、全パの先頭打者、東京(現ロッテ)のアルト・ロペス中堅手は全セ先発の島田源太郎投手の初球をとらえ、右翼へプレーボール本塁打。球宴史上初の派手なスタートだった。
 対する全セの打線は全パ先発の西鉄・池永明投手、2番手の東映・森安敏明投手、3番手の東京・成田文男投手に完璧に抑えられ、8回まで無安打。全パもロペスの一撃のみの1点で試合は9回裏を迎えた。
 1死後、代打で登場したのは巨人・柴田勲外野手。思い切りのいいジャイアンツの切り込み隊長は成田の初球を振り抜くと三塁線を破った。不名誉な球宴でのノーヒットノーランを免れた瞬間だった。
 さらに柴田は仕掛ける。続くサンケイ(現ヤクルト)・武上四郎二塁手の4球目に二盗に、7球目に三盗に成功。一気に同点のチャンスを作り上げた。「内野も捕手もスター選手とはいえ、みんな他球団同士。キャッチャーの(南海・)野村(克也)さんでも呼吸が合わないはず」とにらんでの快走だった。
 武上は倒れたが、次の代打、広島・山本一義外野手の当たりは投手と一塁手の間に小フライとなって上がり、互いが譲り合っているうちに内野安打になって同点に。幸運な内野安打が延長戦になって江藤の決勝打を呼んだ。
 球宴5連敗だけでなく、無安打無得点試合までやられる最悪の状況から、一転して白星を飾った川上監督は「わずか3本のヒットで勝てるなんて…。勝ちに不思議ありだ。野球って分からないな」。不滅の9連覇を達成した大監督もこの時ばかりは、苦笑いを浮かべながら何度も首をかしげていた。
 

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