日めくりプロ野球 7月

【7月22日】1980年(昭55) 日本シリーズの再現 オールスターで“江夏の16球”

[ 2010年7月1日 06:00 ]

【全セ2―1全パ】観戦しているファンはワクワクドキドキかもしれないが、投げている本人は「こういう場面は二度と経験したくない。イヤだ」とまで言った。
 後楽園でのオールスターゲーム第3戦、9回1点差に詰め寄った全パはなおも無死満塁。ここまで巨人・江川卓投手の7奪三振を筆頭に、4投手から13三振を食らったが、最終回に大洋・野村収投手に襲いかかった。夢の球宴とはいえ、勝ち越したい全セの古葉竹識監督は念のためにブルペンで用意させておいた広島の守護神、江夏豊投手を投入した。

 「冗談じゃないぜ。また満塁かよ」。江夏はマウンドで投球練習をしながら舌打ちした。三塁側ベンチを見れば、そこにはあの時と同じ近鉄・西本幸雄監督が指揮を執っている。江夏の脳裏に9カ月前のシーンがよみがえった。
 日本シリーズ第7戦の9回裏、近鉄は無死満塁のチャンスを迎え、逆転サヨナラ勝ちでの悲願の日本一が目の前にぶらさがっていた。が、伝説の“江夏の21球”によって夢は破れ、雨の大阪球場で涙にむせんだ。
 プロ野球ファンの間では語り草となっている名場面も、当事者にとってみれば、もう騒がれるのは…という気持ち。同様のシチュエーションに江夏は「またマスコミがうるさいな」と思いつつ、打席のロッテ、レロン・リー外野手に初球のシュートを投げ込んだ。
 「変化球は球速が遅い分合わせられて外野にもっていかれる。コントロールミスは許されないがストレートで押す」と決め、ファウルで粘られたものの、7球目振らせて空振り三振。まずはひと山越えた。
 まだ1死だったが、西本監督は気が気ではなかった。「次が勝負や。これでダメだと後がない」。続くロッテ・有藤通世内野手にすべての期待をかけた。カウント2―2から「早く終わらせたい。併殺狙い」とインコースのシュートで内野ゴロに打ち取ろうとした江夏。しかし、目論見ははずれ、有藤も空振り三振。これで2死となった。
 西本監督は天を仰いだ。打順は西武・松沼博久投手。当然代打が送られるはずだが、代えようにも野手はこの時点ですべて使い果たしてしまっていた。仕方なく呼ばれたのが、南海の山内新一投手。パ・リーグが指名打者制になる74年までの2年間で3本塁打を放った“スラッガー”だった。
 とてもじゃないが勝負はこの時点でついていた。「ロッテを代表する2人が打てないんだから、ダメに決まっているでしょ」と最後はど真ん中のストレートを見送り三振。こうしてオールスターでの“江夏の16球”は終了。最後にドラマを盛り上げたストッパーがMVPに輝いた。
 「わずか4安打じゃ勝てんわ。選手を使い切ったワシのミスや。江夏はまた球速が増したんやないか。それにしても無死満塁は鬼門やなぁ」と西本監督。江夏が表彰されている姿をぼんやりと見つめながら、この年、最後の球宴出場になった西武・野村克也捕手の横でボヤくしかなかった。

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