日めくりプロ野球 5月

【5月15日】1996年(平8) 判定コロコロに東尾修監督激怒“試合放棄だ!”

[ 2010年5月1日 06:00 ]

 【西武6―3日本ハム】「どういうことや。いいかげんにせんかい!」。西武・東尾修監督が新屋晃二塁塁審に詰め寄った。本塁打のはずが、日本ハム・上田利治監督の抗議で二塁打に覆り、さらに審判団協議の結果、今度は三塁打に。二転三転とはまさにこのこと。29分間、東京ドームでファン不在での醜態がさらされた。
 事の起こりは、4回の西武の攻撃。6番・指名打者の森博幸内野手は日本ハム先発の岩本勉投手のストレートを弾き返し、右中間へ。打球はフェンス上部まで達し、何かに跳ね返ってグラウンドに落下した。

 新屋塁審の右腕がグルグル回り、本塁打の判定で西武に3点目が入った。が、これに上田監督が猛抗議。「フェンスの上に当たった。本塁打じゃない」と主張し、審判団はこれを認め森の一撃は二塁打として試合を再開すべく、今度は東尾監督に説明した。
 当然、東尾監督は納得できない。「一番近くで見ていた審判が手を回しているのに簡単に変わるのか!」「ビデオ見てこんか!」と舌鋒鋭く審判団を責めた。そしてとうとう飛び出したのが「これ以上、ゲームをせんぞ!」。まさかの“試合放棄”を口にした。
 上田監督の抗議から、東尾監督の抗議を経て20分が過ぎた。困り果てたこの試合の責任審判の橘修審判が下した決断がマイクを通してファンに伝えられた。「本塁打のジャッジをしましたが、新屋塁審からアドバイスを求められ、最終的にフェアのジャッジをしました。1死三塁で試合を再開します」。
 東尾監督が烈火のごとく怒ったためなのか、二塁打に“色をつけて”三塁打になっていた。「私の独断で二塁打としたが、4人で協議した結果、普通に打球の処理をしていても三塁まで行けたと判断して三塁打にした」と橘責任審判。上田監督が再度血相を変えて出てきたのは言うまでもなかった。「いいかげんなことをするな!なんで三塁打なんや!おかしいやろ!」。
 ただ、ファンはもう30分近く放っておかれている。かつて阪急監督時代、ヤクルトとの日本シリーズで本塁打をめぐって1時間19分の抗議をし、監督を辞めざるをえなかった苦い経験があった上田監督は、言いたいことを言った後、引いた。「本塁打で1点より、三塁打なら点が入らないかもしれない」という計算がそこにはあった。
 この後7番ジョンソン右翼手の犠飛で森が生還。1点が入った。形の違いはあれ、結局は点数が入った。試合に勝ったこともあって東尾監督は試合後、報道陣から問題の打球について聞かれても「何かあったっけ?もう忘れたよ」と笑顔だった。
 実際のところはどうだったのか。外野席で間近に見ていた日本ハムファンの男性は「スタンドの中の手すりに当たって、グラウンドに落ちた。あれはホームラン」と“証言”した。ほかにも近くで観戦していた観客が手すりに当たったとしており、どうも真実は新屋塁審が最初に下したジャッジの通りだったようだ。
 この年から4人制の審判となったパ・リーグ。「その弊害?あるかもしれないが、それを言ったらきりがない」と五十嵐洋一パ審判副部長は表情をゆがめたが、パ・リーグは翌日新屋、橘両審判に厳重注意を与え、新屋審判に当日の出場手当2万2000円の50%減額、橘審判に同20%減を言い渡した。
 あれから14年。2010年、プロ野球はようやくビデオ判定を導入した。

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