日めくりプロ野球 5月

【5月10日】1966年(昭41) 近藤和彦、3連続本塁打でサヨナラ勝ちのはずが…

[ 2008年4月30日 06:00 ]

独特の天びん打法で投球を待つ近藤和彦。一代限りの名人芸だった
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 【阪神5-4大洋】球史に残るはずだったサヨナラホームランは別の意味で、球史に残る事件となった。
 川崎球場の大洋-阪神4回戦の9回裏、3点を追う大洋は一死後に伊藤勲捕手が1号2点本塁打で1点差に追い上げると、途中から左翼に入っていた重松省三外野手が続いて左翼に5号ソロの同点弾をたたき込んだ。

 2発で一気にタイスコアに持ち込んだホエールズ。打順はトップに戻って近藤和彦中堅手。いつものごとくバットを水平に構える独特の“天びん打法”でジーン・バッキー投手の投球を待った。カウント1-0からの直球は焦るバッキーの気持ちを率直に表現するかのように高めに浮いた。
 コンパクトに振りぬいた打球は左翼線への飛球。左打者特有の切れる打球となったが、白球はポールに直撃。左翼線審の右腕がグルグルと回った。
 奇跡の3連続アーチで大洋大逆転の6連勝、となるはずだったが、近藤和がダイヤモンドを一周している最中に、阪神・藤井栄治右翼手と手沢庄司右翼線審が血相を変えてホームベースまで走ってきた。三塁側ベンチから阪神・杉下茂監督も飛び出し、3人で松橋慶季球審に口をそろえて言った。「タイム中だ。本塁打ではない」。
 手沢線審はこう説明した。「藤井選手がスタンドから投げられたウイスキーのビンを拾って、タイムを要求してきた。私はバッキー投手をすぐに見て、まだ投球動作に入ってないのを確かめてタイムをかけた。しかし、他の審判員は誰も気がつかず、私はタイムを連呼しながら前へ進んだところ、プレーが進み、ホームランとなってしまった」。
 試合は8分間中断。審判団は協議の結果、タイムを認め、ホームランをノーカウントとして近藤和に打ち直しをさせることになった。6連勝となるサヨナラ弾が取り消された大洋ベンチ、三原脩監督はムッとしながら松橋球審らの説明にしぶしぶ同意。空き瓶を投げたのが一塁側の大洋ファンだったこともあり、強く出ることができなかった。
 かなり複雑な心境の打ち直しとなった近藤和は、気落ちしたのか結局ピッチャーゴロ。殊勲打が取り消された上に打ち取られた背番号26はバットをたたきつけて悔しがった。

 試合は延長戦に突入。この日本塁打を放っている4番・山内和弘左翼手が延長戦からリリーフに立った佐々木吉郎投手の真っ直ぐをはじき返し左翼へ2本目となるの7号ソロで勝ち越しに成功すると、最後は9回二死後からバッキーと代わった安部和春投手が抑えて阪神が勝利を挙げた。
 天国から地獄を味わった三原監督は「あれがホームランじゃなく左飛だったら、阪神は抗議したかな。しないと思うね」と苦笑。近藤和も「大洋ファンの行為だから仕方がない。忘れることにするよ」と気にしていない素振りをみせたが、大洋は翌11日の試合も敗れ連敗。4位浮上のチャンスを逸したばかりか、最下位に転落し、5位でシーズンを終えるのが精一杯だった。
 首位打者争いで2位になること4回の“無冠の好打者”近藤和は現役16年間で4回サヨナラ打を放っているが、61年を最後に絶えて久しかった。5年ぶりとなるはずだったサヨナラアーチが取り消され、以後天びん打法から試合を決める最後の一打が飛び出すことはなかった。
 誰にも真似のできない一代限りの天びん打法という名人芸で記憶に残る打者ではあったが、記録にはあまり縁のない選手であった。背番号26はその後、田代富雄内野手、佐伯貴弘内野手とホエールズ、ベイスターズを通じてチームの顔というべき、スラッガーに受け継がれているが、2人とも打撃部門でのタイトルは獲得していない。

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