日めくりプロ野球 5月

【5月8日】1994年(平6) 伊良部秀輝、160キロ宣言も11キロ“減速”でチームを救う

[ 2008年4月30日 06:00 ]

ロッテ時代の伊良部秀輝。直球勝負の投球だけでなく、変化球を有効に使うようになってから、勝ち星が増え始めた
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 【ロッテ4-2西武】「千葉のみなさん、私、伊良部秀輝は今シーズン中に160キロの速球新記録に挑戦することを誓います」--。背番号18の直筆メッセージ入りポスターが千葉マリンスタジアム周辺に張られたのは、マリーンズ7連敗中のことだった。

 西武6回戦に先発した伊良部のMAXは149キロ。11キロ“減速”の“公約違反”ながらも、4安打8奪三振2失点で完投勝利を挙げ、チーム8連敗の危機を救った。
 4月23日の日本ハム3回戦(千葉マリン)。伊良部は最速156キロで14個の三振を奪い、プロ入り7年目にして初の完封勝ちを収めた。この三振ショーを機に球団は話題づくりの一環として160キロ宣言のポスターを作成。前年93年に西武戦で清原和博一塁手相手に158キロを計測していたこともあって、伊良部は快諾した。
 そして大型連休明けの西武戦。きょうこそ日本人初の160キロが見られるのではないかと、3万2000人のファンが集結。シーズン最初の大入り袋が出た。
 立ち上がりの伊良部は公約通りの球速を出そうとしたのか、力みが目立ち初回に2安打で先制点を許した。2回には変化球主体の投球にチェンジしたが、これが決まらず3四死球なとで追加点を奪われた。さらに気分を苛立たせたのは、マリン名物の海風。この日は最大12メートルを記録。センターからの追い風も伊良部にとっては、まるで逆風のように感じられた。
 3回、投球練習中に直球を軽く投げるとボールが自然にホップするような感じで猪久保吾一捕手のミットに収まった。「この風を使ってみるか」。伊良部は7、8分の力で真っ直ぐを放り始めた。
 すると西武打線は次々と凡打と空振りの山を築き始めた。ボールが微妙に浮き上がり、バットの芯でとらえられなくなっていった。気が付けば、3回から8回まで1四球の完璧な投球。9回に1安打されたが全く動じず、MAX149キロながら試合が終わるとヒーローインタビューのお立ち台に立っていた。
 試合前、連敗中のチームに八木沢荘六監督はゲキを飛ばした。「一生懸命やっているのは分かるが、そのレベルが低い。もっと上の一生懸命を目指して頑張ってくれ!」。
 この言葉を聞いて、伊良部には期するものがあった。オレの投球レベルにそんな評価をしていたのか。伊良部の中で闘志が燃え上がった。序盤に力任せになったのもそのためだったが、一歩引いて考えた時、日本最速男になるより、こんな投球もできるよというハイレベルなピッチングを披露することで指揮官の言葉に抵抗した。
 押すだけでなく、引くことも覚えた伊良部はこの年、初の2ケタ15勝(10敗)で最多勝と、239奪三振で最多三振の2タイトルを獲得。ロッテは5位に終わったが、安定した投球でベストナインに選出された。
 96年までマリーンズで3年連続2ケタ勝利を挙げた伊良部はその後メジャーリーグへと旅立った。ただ速いだけの投手から脱皮した伊良部にとって、新たな道を切り開いたターニングポイントのデーゲームだった。

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