日めくりプロ野球 3月

【3月20日】1964年(昭39) 祝開幕!ワンちゃん、喫茶店直撃場外1号アーチ

[ 2008年3月11日 06:00 ]

後楽園や川崎で試合がある時は、多摩川グラウンドで特打をしてから球場入りしていた王(左)と荒川コーチ。場外1号を放った64年は55本塁打の日本記録を樹立
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 【巨人3-1国鉄】08年のパ・リーグペナントレースが開幕した。今年限りでの勇退を示唆しているソフトバンク王貞治監督にとって44年にわたるプロ野球生活の集大成の年になる。その王監督が現役6年目の64年のシーズンは、10月に東京五輪を控え、当時とはかなり早い3月20日が開幕日だった。
 後楽園で国鉄(現ヤクルト)を迎え撃った巨人はそぼ降る小雨の中、開幕10度目の記念先発となった金田正一投手をON砲が攻略。2人で計3安打を放ち、チームは計4安打ながら3-1で初戦を取った。
 1回の先制打は長嶋茂雄三塁手の二塁打だったが、3回に挙げた2点は王のシーズン1号2ラン。過去5年、開幕戦では16打席無安打の王の“初安打”は、金田の内角速球を叩き右翼場外へ運んだ。
 打球は球場の外にあったローラースケート場前の喫茶店の屋根に直撃。推定飛距離150メートルの特大アーチとなった。「まったく王には驚かされる。練習ではからっきし飛ばないのに、本番は場外だもの。生きたバットと生きたボールがぶつかると、あんなに飛ぶんだねえ」王の師匠である巨人・荒川博打撃コーチは舌を巻いた。
 「カウント1-3やし、一塁(走者)が柴田(勲中堅手)やったから足が気になったんや。それに王より次の長嶋をどう攻めるか考えておったら、大失投してしもうた。でも負けたわけやない。たまたまヤマが当たってホームランになっただけや」。打たれた金田は必死に弁解するが、番記者がノートを閉じると、独り言のようにつぶやいた。「今の王には投げる球がない。全部打ちよる…」。6回の第3打席、王が一本足になると同時に金田も上げた右足を静止させ、二段モーションのような形で投球し、タイミングをずらそうとしたが、これも安打にされた。「投げる球がない」は金田の本音だった。
 この年の宮崎キャンプ。荒川は王に「そろそろ二本足に戻したらどうか」と、一本足打法廃業を促した。一本足なら本塁打は出るかもしれないが、他球団の投手が恐れてコーナーばかり突き、勝負してこない。三冠王を目指す王は打率を上げなければならず、そのためには投手に勝負してもらわないと始まらない。それに一本足にしなくても、打つタイミングをつかんだ王はもう大丈夫。本塁打も打点も稼げる、というのが荒川の判断だった。
 しかし、当の王は一本足にこだわった。練習では二本足で打っていたものの、夜間の個人練習では一本足にしていた。キャンプも半ばにさしかかった頃、王は荒川の部屋を訪ねて言った。「一本足に戻りたいんです。これが僕のプロでむやっていくためのバッティングです。一本足で三冠王取ります」。
 師匠に自分のやり方で三冠王を取ると言った以上、後には引けなかった。オープン戦10ホーマーと絶好調のままシーズンインした王は開幕から打ちまくった。国鉄戦の場外本塁打を皮切りに、開幕4試合で4本塁打、打率は6割4分3厘。3月の公式戦は10試合で6本塁打を放つと、早くも6月21日の国鉄19回戦で72試合目にして30号に到達した。9月6日、川崎球場での大洋26回戦では1回に鈴木隆投手から52号、6回に峰国安投手から53号を放ち、1日にして63年に南海・野村克也捕手が記録したシーズン52本塁打の記録をあっさり更新。結局55本塁打で3年連続のホームランキング。打点も119でタイトルを獲得した。
 あとは打率だけ。これはデッドヒートになった。王の前に立ちはだかったのは、“闘将”とよばれた中日・江藤慎一外野手だった。シーズン当初から最下位に沈んだ中日はチーム全体に覇気がなくなっていたが、江藤のバットだけは執念が乗り移ったようだった。「人間やってやれないことはない。ワンちゃんの三冠王はオレがさせない。それが男意地ってもんだ」と、いつでもフルスインング。8月下旬、残り30試合を切って王が打撃三部門でトップに立ってもひるまず、「最後は気持ちが強い方が勝つ」と言い続けた。結局、140試合全日程を終了し江藤は3割2分3厘、王は3割2分。荒川が懸念していた四球の多さが王の命運を決めた形となった。
 ともに頑固者同士。意地の張り合いは翌年も続き、またしても王は打率で江藤に及ばず二冠王。初の三冠はそれから7年後の73年まで待たなければならなかった。
 その江藤は王が監督として最後の勝負をかける姿を見ずに08年2月28日、ガンのため70歳で死去した。かつての偉大なライバル王に、江藤は天国から声援を送るはずだ。「人間やってやれないことはない。ワンちゃん、最後は気持ちが強い方が勝つ」と--。

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