日めくりプロ野球 2月

【2月27日】1991年(平3) ついに…長嶋茂雄、一茂に「プッシュはダメ!ターンと返せ!」

[ 2010年2月1日 06:00 ]

 もう我慢できなかった。「ちょっと、ちょっといいですか」と、許可を取り、ティーバッティング中のヤクルト・長嶋一茂内野手に近づいたのは元巨人監督の長嶋茂雄氏。一茂の父である。宮崎・西都のヤクルトキャンプを訪れた“浪人11年目”の茂雄氏は、この日行われた特打ちからずつと見ていた息子のバッティングにひと言もふた言も言っておきたいことがあった。

 ヤクルト・野村克也監督、茂雄氏の立教大の後輩、丸山完二ヘッドコーチに促されて一茂のもとへ歩み寄った父は、開口一番「顔の位置が斜めだ。ボールを上から見るんだ。そう、そうだ!早めにリストをキューンと返すんだ。押す感じじゃないぞ。押すと左の肘が上がって脇が開くんだ。プッシュはダメだ。ターンと返さないと!」。テレビカメラ11台、報道陣約150人。人前では初めての“親子野球教室”が始まった。
 独特の甲高い声、得意の?英語と特有の“感覚語”を交えて欠点を指摘するミスター。一度始まるともう止まらない。「スイングの軌道がバラバラだぞ。バットが下から出たり、かぶったりしている。軌道は一定にしろ」「ボールの軌道に対して外から打つな。内からバットを出せ」。発する言葉に熱が帯びてくるだけでなく、ついには野村監督が持っていたノックバットを借りて、実際にスイングしてみせた。
 黙ってアドバイスを聞く一茂だが、もう恥ずかしいなどと言っていられなかった。プロ4年目。出場試合数は年々減り、90年は初めて打数が2ケタで終わり、安打数も初めて1ケタの9本止まり。打率は1割6分7厘まで落ちた。91年のキャンプでも練習試合4試合で13打数5安打、打点8はチームトップだったが、野村監督の評価は「集中力がない。バッティングにムラがあるんや」と芳しくなかった。
 ティーバッティングで153スイング。計1時間10分の指導に一茂は「今までだったら周りを気にしてしまったかもしれないが、今の僕はそれどころじゃない。必死です。教われることは教わりたいし、こういう場を与えてくれた監督、コーチに感謝しています」。本心はともかく、初の公開指導は実は一茂が昨年のオフに父親へアドバイスを求めたことがきっかけで実現したものだった。プロとして生きていくために、なりふり構わず何かを吸収したい。一茂はかなり追い込まれていた。
 汗だくのミスターが報道陣に囲まれ感想を求められた。「率直なところ、バッティングにリズム感が少し出てきたかな。ただ、バットの出方が不安定で、いい時と悪い時が交互に出るのが課題。安定した集中力、持続力が欲しい。守備はだいぶ攻撃的になってきているのだから、バッティングも積極性が出てくれば…。ほおがコケてきて、ようやくプロらしい顔つきになってきたが、もっと目がギラギラしていないと…」。
 背水の陣で臨んだ91年、一茂は試合出場こそ前年の倍近い67試合を記録したが、打率2割2分1厘で4本塁打18打点に終わった。翌92年は米国の1Aに野球留学し、修行を積んだが、ヤクルトの14年ぶり優勝には1試合も出場できなかった。その一茂が巨人に移籍したのは93年、父・茂雄が監督に復帰した年だった。

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