日めくりプロ野球 2月

【2月24日】1974年(昭49) 六大学のプリンス、オープン戦初登場で女性客殺到

[ 2008年2月16日 06:00 ]

懐かしい“湘南電車カラー”のユニホーム姿の山下。静岡出身のスーパールーキー入団に合わせたかのように、大洋は静岡名物のお茶の緑とみかんのオレンジをイメージしたユニホームに替えた
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 六大学の“プリンス”と呼ばれた慶大出身、大洋・山下大輔内野手の初お披露目は地元・静岡だった。気温10度、観衆は2万2000人。この時期のオープン戦としては異例の満員札止め。野球ファンはもとより、女性を中心に前売りで5000枚以上が売れたのも異常事態で「やはり大ちゃんの経済効果はものすごい」と球団関係者は笑いが止まらなかった。
 山下家は自腹で前売り券500枚購入。大応援団がネット裏に陣取った。山下の実家は静岡で指折りの実業家。父親はプロ入りせず兄弟で会社を盛り立てることを願ったが、母親は息子の夢をかなえさせてあげようと、父親を説得。このデビュー戦を祈りながら観戦した。
 意外にも「初めての打順」という1番で出場した山下。第1打席は中日先発・鈴木孝政投手の前に三塁ファウルフライ。その後も左飛、四球、左飛で、期待のゴールデンルーキーは大観衆の前で華々しいプロデビュー、とはならなかった。
 無安打に終わった新人を宮崎剛監督はかばった。「発熱でダウンしていたし、とても試合に出せる状態ではなかったが、地元でお客さんも多かったし、無理を承知で使った」。ホクホクの営業サイドとは対照的に、苦しい裏事情を試合後に明かした。
 卒業試験のため、静岡草薙キャンプに山下が合流したのは2月14日。東京・恵比寿のマンションから愛車「ブルーバード」を運転して静岡入りだった。翌15日は休養日だったが、17日に視察に訪れる中部謙吉オーナーのために組まれた特別有料紅白戦に出場させるため、宮崎監督、新任の“青バット”の大下弘打撃コーチらが休日返上で打撃練習に付き添った。
 しかし、その日の夜に山下は扁桃腺を腫らし発熱していきなりリタイア。17日の紅白戦はフラフラになりながら試合前の新人紹介でグラウンドに出たが、試合には出場できなかった。それでも“大ちゃん効果”は抜群。紅白戦にもかかわらず入場料など60万円近い利益が出た。
 静岡・清水東高から一般入試で70年(昭45)に慶大に入学。1年春の六大学リーグ戦、対早大3回戦(6月2日)ではサヨナラ安打を放った。花の早慶戦で最高のスタートを切ったことで象徴されるように、スターとしての華やかな雰囲気が山下の周りにはあった。慶大史上屈指の大型遊撃手は73年度のドラフトでは江川卓投手(作新学院高-法大)、藤波行雄外野手(中大-中日)らととともに目玉候補となったが、1番クジを引き当てた大洋が、江川には目もくれず指名した。
 プロ初本塁打も華々しい場面でのものだった。74年4月22日の阪神4回戦(川崎)。このシーズンからホームでオレンジと緑の“湘南電車”のユニホームを身にまとった大洋は阪神のエース・江夏豊投手らからチームの1試合最多となる8本塁打を浴びせ11-2で爆勝。松原誠一塁手の3本を筆頭に、ジョン・シピン、クリート・ボイヤーの助っ人コンビ、守備の人で“自衛隊”のニックネームがあった米田慶三郎内野手、先発のエース・平松政次が各1本ずつ放ち、最後の新記録弾を放ったのが山下だった。米田に代わりショートに入っていた8回、阪神の左腕・山本和行投手の内角高めの直球を左翼ポール際へ運ぶ2点本塁打。プロ入り初本塁打は今でもチーム記録として残るメモリアル弾となった。「無我夢中です。足がガクガクしています」と鳴り物入りルーキーとは思えない謙虚なコメントを残した。
 ルーキーイヤーは92試合で打率.181、4本塁打9打点。即戦力と期待していた物足りなかった。人気先行は否めず、オールスター戦には台頭著しかった河埜和正(巨人)、藤田平(阪神)を抑え、遊撃手部門でファン投票で選ばれ出場。第1戦(後楽園、セ2-3パ)では長嶋茂雄(巨人)に代わり、途中から三塁を守った。3試合全てに出場したが、そこは人気だけでの出場。実力主義の巨人・川上哲治監督はスタメンでは使わず、打席に入ったのは第1戦の7回のみ。ロッテ・村田兆治投手の前に遊ゴロで終わった。
 ニューヨーク・ヤンキースの名三塁手だったボイヤーの指導を受け、山下が球界一の遊撃手に駆け上がっていくのは、この3年後。77年8月27日の広島18回戦(川崎)から翌78年5月6日のヤクルト7回戦(横浜)まで連続守備機会322回連続無失策を記録。当時の日本新をマークし、「名手」は山下の代名詞となった。
 遊撃手として8年連続(76~83年)コールデングラブ賞は両リーグを通じていまだに破られていない記録。04年から4年連続の中日・井端弘和遊撃手が記録更新をするべく、08年のシーズン5年連続の獲得を目指すが、山下の記録にはまだ及ばない。

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