日めくりプロ野球 2月

【2月15日】1982年(昭57) 「阪神の歴史を作る投手や」村山も絶賛したドラ1源五郎丸

[ 2008年2月6日 06:00 ]

「村山2世」として期待された源五郎丸だったが不運なケガで全く力を発揮せずに引退したのは悔やまれる
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 清和源氏の流れを汲むともいわれる、佐賀県でしか聞かれない珍しい姓に阪神ファンならずとも、その名前を覚えている野球ファンはかなりいるのではないか。
 源五郎丸洋(げんごろうまる・ひろし)。81年11月25日、第17回ドラフト会議で阪神が1位指名した、大分・日田林工高の本格派右腕投手が、2軍キャンプで初のブルペン入り。1軍キャンプそっちのけで、“打撃の職人”こと山内一弘(元ロッテ監督)や阪神の大物OB村山実ら評論家陣がルーキーの品定めに訪れた。
 直球主体に「6分の力で」(源五郎丸)40球。スピードガンの表示は140キロ前後。捕手の後ろでじっと見ていた村山は開口一番こう言った。「阪神の歴史を作る投手や。球のキレが違う」。通算2271安打の山内もうなった。「球に体重が乗っている。手元でホップする感じ。池永(正明、元西鉄)、尾崎(行雄、元東映)と球質が似ている。三振を量産できる投手」。プロ野球の偉大な両先輩は「体を作ってプロの水に慣れれば、オールスター以降に上(1軍)ですぐに使える」と太鼓判を押した。
 中西太監督に代わって就任した安藤統男監督は、大器と評判の高い源五郎丸を大きく育てるため、あえて1軍には合流させていなかった。「すごいといってもまだ高校生。じっくり育てたい」。投手スタッフを見渡せば、小林繁を筆頭に、工藤一彦、伊藤宏光ら右投手は比較的持ち駒は豊富だったこともあった。それでも“源五郎丸待望論”は日増しに高まり、この年就任した通算320勝投手の小山正明投手コーチも「1度見ておきたい」ということから2月24日、キャンプ打ち上げ間際に「経験を積む」という名目で、1軍へ上がった。
 今度は変化球を混ぜて70球。当初は柴田猛バッテリーコーチが受けていたが、ビシビシ決まる速球を目の当たりにした正妻の若菜嘉晴捕手が「オレにも受けさせてくれ」と参加。その力のあるストレートに惚れたようで、捕球したまましばらくミットを動かさず、その感触の余韻を味わっていた。「プロでメシの食えるボールだね。受けていて気持ちいい。新人王?いけるんじゃないの」と若菜。安藤監督も「次は実戦で」と、3月3日の甲子園での有料紅白戦での先発起用を明言した。
 その紅白戦では2回2安打1失点。けん制ミスでピンチを広げ、1点を奪われたが、主砲・掛布雅之三塁手は真っ直ぐを詰まらせ浅い中飛に打ち取った。「あれで高校生?ストレートに力があるね。しかもストライクが取れて度胸もある。1軍で投げるのも近いね」と若虎もその実力を認めた。ゆっくり育てたいとしていた、安藤監督もオープン戦での登板も示唆し「ウチの将来のエース候補。楽しみになってきた」とドラ1の実力に違わぬルーキーへの期待は膨らんだ。
 しかし、運命はたった1日で逆転してしまった。紅白戦の翌日、体力強化で2軍での調整をしていた源五郎丸は、練習の最後に行ったベースランニングで一塁を回ったところで転倒。立ち上がれない背番号17を病院に担ぎ込むと診断結果は目の前が真っ暗になるものだった。「右大腿部二頭筋断裂で全治4カ月」。太ももを痛めた選手の復帰は時間がかかる。まして投手として生命線といえる軸足。結局これが致命傷となった。
 以後、潮が引くように源五郎丸は話題にのぼらなくなった。けがをかばい、本来のダイナミックな投球フォームは戻らず、自慢のストレートも精彩を欠いた。1軍昇格のチャンスもないまま、5年間のファーム暮らしを続け86年オフに戦力外通告。64試合6勝11敗2セーブ、奪三振88、防御率5・18。これが“村山二世”とまでいわれた源五郎丸の2軍での全成績。公式戦で1軍のマウンドに立つことは1度もなかった。
 電電九州・右田一彦投手をめぐり、大洋と競合した結果、クジで外れた阪神からの指名ではあったが、早大進学希望を捨てて巨人ファンだった源五郎丸はタイガースに入団した。ライバル視していたのは、同じドラフトでジャイアンツに1位指名された同い年の槙原寛己投手。「槙原君と阪神-巨人戦で投げ合いたい」という夢はかなわなかった。入団時、背番号54だった槙原が源五郎丸と同じ17番に替わったのは87年から。86年に引退した源五郎丸とまるで入れ替わるかのようだった。
 「1軍ではできなかったが、プロというトップレベルで野球ができたことに後悔はない」と、引退後はスポーツ店経営や父親とともに造園業を営み、掛布が主催する野球教室で講師を務めたりした。現在は自身が野球教室を取り仕切り、野球を通して少年少女の夢実現の応援をしている。

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