日めくりプロ野球 12月

【12月11日】1958年(昭33) 中日、大逆転の末に“奪三振王”板東英二獲得

[ 2010年12月1日 06:00 ]

 中日球場のブルペンに、ドラゴンズの真新しいユニホームを着た18歳の高校生が姿を見せた。背番号は「30」。前年まで54年の優勝監督、天知俊一前監督が付けていた番号にも臆することなく、報道写真用にブルペンでキャッチボールをしたのは、徳島商高の板東英二投手。現在、俳優、タレントとして活躍している、板東英二といった方がなじみ深いかもしれない。

 春のセンバツ高校野球優勝の早稲田実業・王貞治投手以上に、大学も含めて各球団が獲得をめぐってし烈な争いをした末に入団にこぎ着けただけに、ルーキーとしては異例の中日新聞本社社長室での契約調印。同社の小山会長まで同席する歓待ぶりだった。

 58年夏の第40回全国高校野球選手権大会、準優勝投手となった板東は6試合62回を投げ、奪三振83。堂々の大会記録を樹立(07年時点でも最多記録)し、ドラフト制度のない当時は大会終了直後から争奪戦となった。

 特に熱心だったのが広島だった。広島は板東の母親に接触し、前年立教大から巨人入りした長嶋茂雄三塁手の契約金1800万円を超える2000万円を提示。さらに広島に新居を建てるという“オマケ”まで付けた。これに阪神、巨人、中日がやや遅れて参戦する構図となった。

 板東自身の希望は大学進学。特に東京六大学に憧れていた。明治、法政などがいち早く声をかけてきたが、板東は9月、慶大の練習に参加。外角低めの速球の制球の良さに関係者は「是非来てほしい」と懇願した。板東も伝統のグレーのユニホームを着て、早慶戦で投げる姿を想像し、「慶応進学」を第1志望として進路に絞った。

 しかし、板東のプロ入りに対する周囲の期待は膨らむばかり。親族も大学よりプロの道を勧めていた。板東が思い悩む間に、巨人は王を獲得し、是が非でも板東をという気持ちはなくなり撤退。阪神もA級10年選手(同一球団在籍10年で移籍の自由が得られる)の権利を行使して、毎日(現ロッテ)への入団を希望している田宮謙二郎外野手の引き止め資金が必要となり手を引いた。広島は相変わらず高評価をしており、関係者はプロなら広島入りとみていた。

 ここで巻き返したのが中日だった。スカウト2年目、戦争中の44年(昭19)、1年間だけ巨人に在籍した柴田崎雄スカウトが徳島に潜入。柴田スカウトは板東が子供の頃から慕っていた叔父の説得に成功。契約金も広島と同等のものを用意するとし、広島と一騎打ちの態勢まで挽回した。

 富山での国体が終了した後の11月上旬、親族会議が開かれ、板東は慶応進学を諦める代わりに「僕の好きな球団に行かせてくれるなら」との条件を出した。「広島より中日の方が好きな球団」という板東の選択が通り、中日入りが内定。板東は「徳島に中日がオープン戦で来た時に試合を見て好きになった」というドラゴンズファンだったのだ。

 ルーキーイヤーの59年7月2日、後楽園球場での国鉄(現ヤクルト)11回戦に5回3分の2を投げ3安打2失点で初勝利。4勝4敗でシーズンを終えたが、翌年は10勝、61年12勝とローテーション投手となり、着実に成長。入団時の監督、杉下茂直伝のフォークボールを駆使し、勝ち星を積み重ねていった。

 実は板東、入団時から右ひじ痛だった。それを「痛み止めの注射をしながらだましだまし投げていた」。4年目、ついに長いイニングを投げられなくなり、2年間で勝ち星がわずか5勝(10敗)。トレード要員となっていた。

 しかし、64年途中から就任した西沢道夫監督が「度胸のいい板東をリリーフで使えないか」と考え、投手の分業システムを唱え始めてい後の中日優勝監督、近藤貞雄投手コーチに託した。当時、敗戦処理的なイメージが強かったリリーフだが、近藤は勝ち試合こそ継投策で逃げ切るバターンを確立。打者1巡ならば十分抑えられる板東に今でいうストッパー役を命じた。

 65年から本格的に抑えに回った板東は55試合に登板し12勝7敗と復活。以後、60試合13勝5敗、51試合14勝6敗の成績を残した。セーブ制度がなく、抑えの評価はなかなか上がらなかったが、後年星野仙一、鈴木孝政、牛島和彦、郭源治…、現在の岩瀬仁紀に至るドラゴンズのストッパーの系譜の元祖は板東といえる。

 実は同期の王とは若い頃、飲み友達。銀座で徹夜で飲むということもよくあったという。ちなみに王と板東の対戦成績は68打数14安打3本塁打で打率2割6厘。四死球は31個と多いが、三振も18個奪っている。王との対戦が100打席以上の投手は45人いるが、打率だけでみると、板東が王を一番抑えこんでいる。板東の王封じの秘訣は「一本足打法を崩すのにスローボールを多く投げた」と明かしている。(07年12月11日掲載分再録 一部改変)

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