日めくりプロ野球 10月

【10月25日】2009年(平21) 日米20球団争奪戦 菊池雄星 涙のメジャー断念宣言

[ 2010年10月1日 06:00 ]

 こらえていた涙が最後になってあふれ出た。一度流れ出すともう止めることなどできない。岩手・花巻東高の左腕、菊池雄星投手は会見を開き、進路について日本のプロ野球を選択、熱望していた米大リーグへの挑戦をひとまず断念することを表明した。
 「きのうまで悩んだ結果なので、悔いはないです。今は日本ですべてを出し尽くし、みんなに認められる選手になりたいという気持ちでいっぱいです」。しっかり前を見て話したが、18歳の少年の本当の気持ちは涙が代弁していた。

 小学校のころからプロ野球よりもメジャーリーグに憧れ、甲子園の次の舞台は海の向こうと心の中で決めていた。が、日米20球団が獲得を目指す10年に1人の逸材を、人気の面でも正念場にきているプロ野球がそう簡単に海外へ“流失”させるわけにはいかなかった。学校側と面談したプロのスカウトは一様に「ウチの球団に」というより「まずは国内のチームに入って」と、まるでタッグを組んでいるかのように米国行きを思い止まらせることに必死だった。
 メジャーに憧れる気持ちは分かる。若いプロ野球選手が次々と日本を後にし、レッドソックス入りした田沢純一投手のよう日本のドラフト1位が確定的にもかかわらず、直接メジャーに行って白星をマークするような投手が出現すれば、なおさら高校生左腕の胸は高鳴るのも無理はない。
 それでも少年の夢は大人の思惑で実現しなかった。周囲の“圧力”に学校関係者は「菊池がメジャーに行けば、花巻東は日本中を敵に回すことになる」とまで感じた。菊池がパイオニアになれば、第2、第3の菊池が現れ、プロ野球とアマ側の関係は悪化するばかりでなく、優秀な人材が集められず、レベルの低下を招く恐れがある。学校への中傷の手紙、インターネット上には菊池を批判する心ない書き込みも少なくなかった。結局、各方面へ配慮した結果、多くの人に歓迎されない渡米は時期尚早ということになり、菊池の夢はひとまずお預けとなった。
 「どうして夢を後押ししてやれないのか」。菊池にではなく、周囲の人間に対してメジャーの担当スカウトは、菊池に苦渋の決断を半ば強制的にさせた関係者に不快感を示した。大リーグ側が本当に菊池の挑戦を待ち望んでいた証明として、公式ホームページは会見後わずか1時間で菊池の決断の内容をアップ。最低9年間は海を渡れないという日本のシステムを批判的に説明した。
 会見から4日後のドラフト会議。89年の野茂英雄、90年の小池秀郎両投手の8球団を上回る指名も予想されたが、菊池獲得に手を挙げたのは、西武、阪神、ヤクルト、中日、楽天、日本ハムの6球団。「グチャグチャと混ぜようかと思ったけど、運が逃げちゃうと思って…。真ん中ぐらいのを取った」という、最初にくじを引いた西武・渡辺久信監督の封筒に「選択確定」の判が押されたカードが入っていた。
 即1軍、10勝も夢ではないと騒がれた、ビッグルーキーの1年目は試行錯誤とケガに泣いた。あれから1年しかたっていないというのにその名前を聞くことはあまりない。左肩痛でリハビリ中の2010年秋、「キャンプ、開幕をにらみながら慎重にやりたい」と話す雄星だが、周囲に惑わされず輝きを取り戻すことを多くの野球ファンが心待ちにしている。
 

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