日めくりプロ野球 10月

【10月19日】2004年(平16) 満塁弾には満塁弾を!中日迷った酔った カブレラの値千金弾!

[ 2010年10月1日 06:00 ]

 【西武10―8中日】打った瞬間、バットを放り投げ、両腕を高々と掲げた。同じ左翼スタンド方向を向きながら、中日・谷繁元信捕手はマスクも外さぬまま、天を仰いで苛立ちの声を上げた。
 西武ドームでの日本シリーズ第3戦。西武の主砲、4番アレックス・カブレラ内野手のシリーズ2号本塁打は西武ドームの外野席の隙間から外へ飛び出す場外弾。居並ぶ売店の中でたこ焼きを売る店ののぼりを立てた台座に直撃し、これを粉砕してしまった。

 カブレラのこの日2本目のアーチはなんと勝ち越しとなるグランドスラム。「集中力が高まっていたミスショットしたくないと思っていたが、最高の結果が出てうれしいよ」。オープン戦で死球を受け骨折した右手手首の痛みは薬を飲みながら耐えた打った値千金弾だった。
 そこまでするのも2年前の日本シリーズで2本のアーチをかけながら、巨人に4タテを食らい負けた悔しさがあるからだった。相手は違うが今度こそ…。そのモチベーションが助っ人を奮い立たせていた。
 一度満塁弾を浴びて沈みかけたのは西武の方だった。中日は6回、1死満塁で谷繁が長田秀一郎投手のストレートを左翼席まで運ぶ一発を放ち、3点ビハインドのゲームをひっくり返した。ドラゴンズの司令塔が打ったグランドスラムはシリーズ15本目。過去の14本はいずれも勝利に結びついており、中日は敵地でシリーズ2勝目へグッと近づいた。
 それが、である。55回を数える日本シリーズ史上初の1試合2本の満塁ホームランによって、谷繁の方は前代未聞の空砲になってしまった。
 カブレラの劇弾には伏線はあった。2点リードの7回、中日2番手の岡本真也投手が1死二塁のピンチを迎えると、落合博満監督がベンチから出てきた。100%交代のパターンだったが、シーズン中にない行動を指揮官はとった。
 「どうする?」。落合監督はバッテリーに尋ねた。これまで一度もなかった光景だった。岡本はセ・リーグの最優秀中継ぎ投手。「行けます!」と答えるのは当然だった。
 森繁和投手コーチからの電話で、一度ブルペンから出てきた高橋聡文投手に立浪和義三塁手をはじめ、内野陣が手を上げて、マウンドへ行こうとするのを押しとどめた。当初交代を決断したものの、迷った落合監督に意志はブルペンに届いていなかった。
 結果から言えば、岡本は連続四球を出し満塁にし、1番佐藤友亮右翼手に同点の2点適時打を浴び、さらに続投し再度満塁になってカブレラにトドメの一撃を浴びた。
 落合監督は言った。「こっちのミスで負けた。それ以上でもそれ以下でもない。ベンチのミスということは監督のミス。動いちゃいけないところで動いてしまった。選手に余計なプレッシャーを与えたね」。
 谷繁のリードも悲劇を招いた。カブレラに2球続けて内角高目を要求。2球目に空振りを奪った。この空振りに谷繁は“酔った”。内角高めはカブレラの弱点ではあったが、谷繁は3球目を同じところへ要求。これがコントロールミスとなり、外角低めのやや真ん中寄りに。快音とともに白球は150メートル弾となって消えた。
 日本シリーズという通常の公式戦とは比べ物にならないくらいプレッシャーがかかる場面で、百戦錬磨の監督も捕手も平常心ではいられなかった。だからこそドラマは生まれたのである。

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