日めくりプロ野球 10月

【10月16日】1991年(平3) あっさり1打席目で逆転 古田敦也 捕手最高打率で首位打者

[ 2010年10月1日 06:00 ]

 【ヤクルト8―2広島】初球、ストレートを強振して空振り。だが、反省はなかった。次は内角の真っすぐ。そう読むと後は思い切り振るだけだった。
 広島・足立亘投手の2球目。読み通りだった。迷いなく出したバットから鋭い打球が弾き出され、三遊間を襲うと、速いゴロになってあっという間に左翼に達した。一塁ベースを大きく回ってストップ。帰塁すると、ホッとしたような笑みを浮かべ、腰に手をやった。神宮球場のスコアボード。ヤクルトの3番古田敦也捕手のアベレージの欄に「・341」の数字が入った。

 広島との91年ペナントレース最終戦。中日・落合博満内野手と激しいリーディングヒッター争いを演じていた古田は、初回の第1打席にシーズン140本目の安打を放ち、前日の15日に打率3割3分9厘5毛で終わっていた落合を抑えて、プロ2年目でタイトルホルダーに輝いた。
 落合は最終戦となった広島戦(ナゴヤ)で脅威の6打数5安打を記録。かつての三冠王は土壇場でその計り知れない力を見せ付けた。「正直、気になって仕方がなかった。午後11時くらいに寝たんだけど、朝の6時までちゃんと眠れなかった。グラウンドに立っているシーンばかりが頭に出てきて…」と古田。球場に来てようやく吹っ切れた。「考えても仕方がない。思い切りやるだけ」。シンプルな気持ちで打席に入った結果が、最高の形となって表れた。
 2打席目は三振に終わり、ここで交代。3割3分9厘8毛でわずか3毛さながら逃げ切った。守りが主の捕手にとってこの打率は実に驚異的。過去捕手の最高打率は1リーグ時代の1949年(昭24)に阪神の土井垣武捕手が記録した3割2分8厘でだったが、これを42年ぶりに塗り替えたばかりでなく、師匠である野村克也監督が南海で三冠王を獲った65年(昭40)の3割2分以来、26年ぶりの首位打者。セ・リーグでは初のキャッチャー首位打者だった。余談だが、眼鏡をかけての首位打者は、57年(昭32)の巨人・与那嶺要外野手とこれで2人目だった。
 ルーキーイヤーは打率2割5分だった男が、わずか1年で首位打者になったのは左ひざが割れる欠点の矯正と配球の読みに加え、安打数の6割を占めたセンターから右方向の打撃に徹した結果だった。特に配球については野村監督のマンツーマン指導によるところが大きかった。
 ベンチに戻ればいつでもノムさんの横や後ろでその言葉に耳を傾けた。「来た球を打てる清原とおまえは違うんや。狙い球を絞り、次に何がくるかそれを読め」と口すっぱく言われた。打つべき球と見送る球、選球眼がしっかりした時、打率は自然と上がっていった。タイトルを決めた1本も内角の真っ直ぐを読んで振り抜いたものだった。
 「ああ、打ったの。しょうがない、こういう展開にしたオレが悪いんだから。まあ、いいんじゃないの」。自宅で古田の首位打者確定を聞いた落合は特に気にしていないといった口ぶり。本塁打王と二冠を取れるはずだったが、伏兵・古田にやられたのは、口には出さずともかなりの悔しさだったに違いない。通算5度のリーディングヒッターになった落合だが、このチャンスを逃した後、2度とバットマンレースのトップ争いを終盤戦まですることはなかった。

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