日めくりプロ野球 10月

【10月19日】1976年(昭51) “糸の差”逆転首位打者!谷沢健一、安打製造機抜き去る

[ 2008年10月17日 06:00 ]

背番号を変更し、執念で首位打者となった谷沢健一。長打力もあり通算本塁打は273本を数えた
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 【広島13-8中日】打った瞬間“抜ける”と確信した。それがバットを投げ出した途端、両手でバンザイをしながら走るという行動を取らせた。
 中日の3番・谷沢健一右翼手が7回、広島・高橋里志投手から放った中前打で、この日4打数3安打。シーズン176本目の安打は、巨人・張本勲外野手の打率を抜き去る首位打者獲得を決めた一打となった。前の打席は14球粘りながら、見逃しの三振。「悔いは残したくない。だからフルスイングすることだけを考えていた」とカウント1-1からシュートを弾き返した。

 谷沢の打率3割5分4厘8毛3糸、張本の打率3割5分4厘7毛7糸。その差わずかに6糸。毛よりも小さい単位で、明と暗が分かれた。「嬉しくって嬉しくって…。涙で前が見えなかった」という谷沢。涙で曇った目で守りについた8回、佐野嘉幸中堅手の右翼への平凡な飛球を落とし、三塁打にするほどだった。
 69年のドラフトで全指名選手116人の中でイの一番で指名され、中日に入団。早大の誇る東京六大学通算打率3割6分のスラッガーはその実力どおり新人王を獲得したが、その後はタイトルと無縁。7年間苦しんだその集大成が、この年546打席目に凝縮された。
 10月初めまでバットマンレースのトップを走る張本を脅かしていたのは、ヤクルト・若松勉外野手だった。谷沢は張本と約2分の差。正直なところ張本の眼中にはなかった。ここから谷沢の猛追が始まった。12試合で48打数25安打、打率5割2分1厘。16日に張本のいる巨人は優勝で全日程を終了。谷沢は残り4試合で3厘差まで猛追。視界にリーディングヒッターが入っていた。
 しかし、17日の広島市民球場でのダブルヘッダーでは6打数2安打で打率は現状維持。バントヒットまで狙いにいったが、差を詰めることはできなかった。18日に地元名古屋に戻ると、谷沢は自宅に戻らなかった。若手が暮らす寮に向かい、午前2時まで同じ千葉県出身の後輩、鈴木孝政投手とウイスキーを痛飲した。セーブ王と防御率1位のタイトルを確定していた鈴木と飲むことによって、気を紛らわし、タイトルを取った縁起の良さにあやかろうという気もあった。どんなことをしてでもタイトルホルダーになりたかったのだ。
 「オレを目標に置いたことがあるか?」。1年前の8月、谷沢は巨人・王貞治一塁手にこう問われた。2割9分台まではいっても、3割を1度も打ったことがなかった。「それから目標を高く持ち、何が何でもやり抜こうとという気になった」。
 シーズン前目標を「3割5分」と言うと周囲から失笑された。3割すらクリアしてない打者が、首位打者レベルの数字を口にするなど、冗談にしか聞こえなかったからだ。背番号を大学時代から慣れ親しんだ「14」から「41」に変え、ヘルメットは中日では最後に首位打者になった中利夫外野手のものをかぶった。
 後にアキレス腱を痛め、引退の危機にさらされた時も首位打者となった誇りが支えとなった。80年にカムバック賞、そして2度目の首位打者を獲得。不死鳥のようによみがえた谷沢が放った通算安打は2062本。早大野球部出身者唯一の2000本安打突破選手である。

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