日めくりプロ野球 10月

【10月13日】1984年(昭59) “神風”に乗った!プロ野球初の「0番」男、殊勲の逆転弾

[ 2008年10月11日 06:00 ]

殊勲の3本塁打を放ち日本シリーズMVPに選ばれた長島清幸。中日に移籍後はロッテ、阪神と渡り歩いた。通算1091安打、107本塁打、ゴールデングラブ4回受賞
Photo By スポニチ

 【広島3-2阪急】フラフラっと上がった打球をチラッと見て、阪急・山田久志投手はマウンドを降り<三塁側ベンチへ歩き始めた。広島の5番・長島清幸左翼手の当たりは詰まった左飛。広島市民球場を埋め尽くした約2万9000人の大半が「あ~」と嘆声とともに肩を落とした。
 福本豊左翼手がゆっくり後退し落下点に入った。そこから1歩、2歩さらに後退。と同時に、ため息をついたはずの観衆が「おおっ」とどよめき始めた。平凡な左飛が伸びる、伸びる。ついに福本はフェンスによじ登った。左翼スタンドのカープファンはほぼ一斉に同じ声を上げた。「来い、来い、来い!」。 三塁側ベンチに戻りかけている山田が歩を止めた。「ウソだろ?」。福本がグラブをスタンドに差し出す。カープファンが息をのむ。白球は福本のグラブの先端に当たり、そのまま観客席に落下した。

 日本シリーズ第1戦の8回裏に飛び出した、逆転2点本塁打。秋の市民球場特有の右から左へ吹く風に、カープファンと選手の思いが乗り、土壇場での起死回生の一撃となった。あ然とする山田と阪急ベンチ。湧き上がる広島ベンチとスタンド。値千金の一発を9回、小林誠二投手が守り、広島は緊迫した初戦を制した。75年の日本シリーズで阪急に0勝4敗2分と一敗地にまみれた広島。「神風でしたね」と言った広島・古葉竹識監督は感慨無量の様子で、9年越しの対阪急シリーズ初勝利をかみしめた。
 信じられないのは打たれた山田以上に、打った長島だった。「風しかないですよ。神風ですよ。詰まったし、捕られるなあと思いながら走ってたら、お客さんが騒いでるし、ベンチはバンザイしてるしもう驚いた」。実は打球を走りながら追っていたため、一塁ベースを踏み忘れて一旦通過。アウトだと思って走り続けたが、スタンドインしたことで慌てて戻って踏み直した。
 山田の緩いチェンジアップ、シンカーにタイミングが全く合わず、3打席凡フライで迎えた4打席目。しかし、まぐれの一発ではなかった。試合前のフリーバッティング。長島は意図的にレフト方向へ打球を飛ばしていた。「この風でしょ。左側の方が風に乗って少しでも打球が伸びると思ったから」。
 無名の静岡自動車工高(現静岡北高)から名スカウトの木庭教の目に留まり、ドラフト外で入団した5年目の外野手。競争の激しい広島の外野陣でレギュラーを入団4年で奪うだけあって研究熱心。準備を怠らなかった球界初の背番号「0」選手に勝利の女神が微笑んだ。
 広島を牽引するチームリーダー、山本浩二中堅手、衣笠祥雄三塁手以上に、16年目のベテランサブマリーンはこの背番号0を警戒していた。「9月に巨人戦で連続サヨナラホームランを打った兄ちゃんやろ。アイツは警戒せんと」と山田。長島が左方向を狙って打つ打撃練習を食い入るようにベンチから見ていた。
 山田が導き出した長島封じは、外角への変化球でカウントを稼ぎ、最後は内角球で仕留めるパターン。それが最後の打席でフルカウントから山田が勝負球に選んだのはなぜか外のカーブ。バッテリーの一瞬のひらめきがあだとなった。「悪い球やなかったけど…。風に泣いた?打った方が立派なんや。関係ない」。エースのプライド。風のせいにはしなかった。
 チームを救った一撃で長島はシリーズ男になった。第7戦の6回、山田から今度は同点アーチを放ち、終盤の5得点の火付け役にもなるなど、7試合で3本塁打10打点をマーク。広島に4年ぶりの日本一をもたらしただけでなく、MVPに輝いた。現役投手として計7度シリーズに出場した山田にとっては長島に同点本塁打を浴びた試合が最後の頂上決戦の登板だった。長島に2発を食らい、いずれも敗戦投手となったことで、敗戦数はシリーズ個人最多の9敗(6勝)という“勲章”が今でも記録として残っている。

続きを表示

バックナンバー

もっと見る