日めくりプロ野球 10月

【10月12日】1989年(平1) “続10・19”!ブライアント、獅子の息の根止める4連発!

[ 2008年10月8日 06:00 ]

天敵・渡辺久信投手から勝ち越し本塁打を放ったラルフ・ブライアントは打った瞬間ガッツポーズ
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 【近鉄6-5、14-4西武】映画やドラマの世界では、1作目と比べて続編はあまり面白くないというのが定説だ。しかし、平成の幕開けとなった89年の近鉄バッファローズの戦いぶり、特にクライマックスは前年の大作「10・19」を上回る感動的なラストが用意されていた。
 きっかけは4点ビハインドから飛び出した1本のソロ本塁打だった。西武球場での西武-近鉄ダブルヘッダー第1試合、近鉄は4回に3番ラルフ・ブライアント左翼手の46号アーチで1点を返し1-4とした。カウント1-2からの真ん中高めのストレートを完璧に打たれた西武・郭泰源投手だが、後を引くこともなく後続を抑え、5回も3者凡退に打ち取った。

 5回、西武は追加点を挙げ、再度点差を4点にした。首位にいるのはオリックスとはいえ、この試合に西武が勝てば、まずは眼下の敵・近鉄が優勝争いから脱落。オリックスが川崎球場で戦っているロッテにダブルヘッダーで連敗すれば、西武の胴上げもあり得た。ライオンズのV5が見えてきた時、5回まで2安打1失点の郭は登板前の食事のメニューを変えたことを思い出していた。「トンカツ定食から中華にしたのが良かったかな」。それくらい余裕があった。
 それから30分もたたないうちに郭は奈落の底に突き落とされた。6回、9番・真喜志康永遊撃手に四球を与えると、タイミングが全く合ってなかった大石大二郎二塁手、新井宏昌中堅手に連打されたちまち満塁。打者は前の打席で本塁打を食らったブライアントを迎えた。
 「前夜は興奮して珍しく朝まで眠れなかったが、4回のホームランで気が楽になった。だからいける気がした」とブライアント。高めのつり球か、低めなら落ちるボールか…。初球から打ち気マンマンの外国人に、伊東勤捕手が出したサインはスライダー。郭の自信のある球だった。内角に構える伊東。郭の足が上がった。フォームに力みが感じられる。右腕から繰り出されたボールは高めに浮いた。曲がりの小さい“まっスラ”のようになったボールは、46号弾と同じ真ん中高めの軌道だった。
 「少し芯を外れていた」とブライアントは言ったが、打った瞬間、右腕を高々と上げVサインを作ってみせた。ぼう然と打球の行方を見るだけの平野謙右翼手。追いかけようにもどうにもならないくらい、高くそして遠くところにあった。西武ファンが陣取る右翼スタンドに突き刺さったグランドスラム。レフトスタンドの一角を占めた少数の近鉄ファンが、悲鳴にも似た歓喜の雄叫びを上げた。まさに起死回生の同点の一撃。来日81本目の本塁打で初めてかっ飛ばした満塁弾で猛牛軍団は息を吹き返した。
 こうなると流れは止められない。8回、4打席目のブライアントを迎え、西武ベンチはエース渡辺久信投手をマウンドに送った。14打席で8三振、本塁打は0。ブライアントが顔も見るのもイヤな右腕だったが、2本塁打の効果は計り知れないものだった。カウント2-1と追い込まれても、口元をややほころばせる助っ人に渡辺は不気味な気配を感じ取っていた。決め球は外角高めのストレート。渡辺が何度となくブライアントを料理してきたコースだった。気になるのはブライアントの笑み。「調子に乗ってんじゃねぇよ」。腕をめいっぱい振って投げたつもりだったが、郭同様それは力みを呼んだ。
 「いつもは空振りを取れた球」(渡辺)を完璧にとらえた白球は、高々と夕暮れ迫る秋晴れの空に吸い込まれるように伸びた。“きれてくれ、ファウルになってくれ”哀願するかのような視線で右翼を見る渡辺。願いを打ち砕いた打球は、約130メートル飛んだ白球は右翼席上段ではねた。
 1人で3本塁打6打点。試合まで決めてしまったブライアントはベンチに戻っても「アンビリーバブル(信じられない)!」を繰り返すばかり。1試合3本塁打は通算6度目。前年夏、大麻所持で解雇されたリチャード・デービス一塁手の代役として中日のファームでくすぶっていた男がわずか2シーズン足らずで、世界の本塁打王・王貞治が22年かかってマークした1試合3本塁打通算5度の記録を簡単に抜き去ってしまった。
 「アンビリーバブル!」なのは西武だった。オリックスの試合結果次第では優勝もあり得たが、この痛すぎる大逆転負けで一気に5連覇は難しくなった。続く第2試合。インターバルわずか30分程度では“ブライアント・ショック”から立ち直れるはずもなかった。ブライアントにチャーリー・マニエル外野手が80年に記録した48本塁打の近鉄球団記録を破る49号本塁打を浴びるなど、15安打で14点を奪われた王者ライオンズは惨敗。まさかの連敗で優勝の可能性は9分9厘なくなった。
 “神様、仏様、ブライアント様”の4発で“爆発”した近鉄は、地元藤井寺球場に帰って10月14日に9年ぶりのリーグ優勝達成。前年130試合目で引き分けにもかかわらず、負けを認めなければならず悔し涙を流した男たちは、1年後に129試合目で嬉し泣き。映画やドラマのようでもあるが、実際に起きた奇跡はフィクションより断然面白かった。

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