日めくりプロ野球 8月

【8月12日】1989年(平元)斎藤雅樹、天国から地獄へ 落合博満サヨナラ3ラン!

[ 2009年8月1日 06:00 ]

斎藤にプロの厳しさを教えた落合。ここ一番の読みと勝負強さは群を抜いていた
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 【中日4-3巨人】強気の捕手、2度の凡フライ…それを考えたら、絶対にストレート勝負だ。中日の4番落合博満三塁手はそう読むと狙い球を絞った。 9回裏2死一、三塁。カウント0-1から巨人・斎藤雅樹投手は中尾孝義捕手のミットめがけて渾身のストレートを投げた。真ん中低め。決して甘い球ではなかった。が、落合のバットは一閃。背番号6の打球が一番伸びる右中間へと舞い上がった。

 ウォーレン・クロマティ中堅手が懸命に背走したが、足が止まった次の瞬間、打球はそのままスタンドイン。うだるような暑さの名古屋の夜に飛び出した、落合の20号3点本塁打はサヨナラホームラン!あまりにも劇的な結末に3万5000人の観衆の多くを占めたドラゴンズファンは狂喜乱舞。生還した落合も四方八方から叩かれ蹴られの手荒い祝福を受けた。
 笑いが止まらないと同時に、目の前で見た光景が信じられないと思ったファンも多かった。なにせ斎藤は8回まで四球1個と失策の走者を出しただけのノーヒットノーラン投球。9回、中日最後の攻撃前に円陣が組まれたが、合言葉は「勝利」ではなく、「ヒット1本打とう」だった。
 先頭の中村武志捕手が三振に倒れ、巨人投手陣としては76年4月18日の加藤初投手以来、13年ぶりの大記録にあと2人となった。次に打席に入ったのは代打・音重鎮外野手。この日1カ月半ぶりに1軍に登録されたばかりの左打者は、直球を強振することだけを考えていた。カウント1-0からの2球目外角高めの真っ直ぐを引っ張ると、打球は右翼線へ。会心の当たりではなかったが、フェアグラウンドにポトリと落ちた。
 初ヒットに沸く中日ベンチ。大記録の夢破れ、気落ちしているだろう斎藤を中村稔投手コーチがベンチからマウンドに駆けつけなだめた。しかし、この1本で流れは変わりつつあった。2死後に2番川又米利一塁手が四球を選ぶと、球場の雰囲気は風雲急を告げた。完封を意識した斎藤に力みがみられ、ストレートが甘くなった。3番仁村徹二塁手が適時打を放ち、1点が入ると、斎藤は完全に冷静さを失っていた。
 そして落合。ストレートと読んだのは、中尾捕手の困った時はストレートで押すという強気な性格だった。加えて前2打席で右飛、二飛に仕留められた落合はいずれも真っ直ぐに押されていた。変化球打ちのうまい落合にはタイミングが合っていないストレート勝負の方が無難、という計算が働くと落合が推測しそれを待った。
 読みは完璧だった。「もう少し高かったら、ポップフライかもしれないが、低かった分うまくバットが出た」と落合。やや外角よりの低め。落合得意の右打ちの真骨頂が発揮された、9年連続20号本塁打のサヨナラアーチだった。
 前半戦に日本新記録の11連続完投勝利を挙げた斎藤は3敗目。あと2人でノーヒットノーランという天国から、サヨナラ負けで敗戦投手という地獄を見た右腕は、立ち直れないほどショックを受けた。藤田元司監督が「よく投げた」と労をねぎらっても、報道陣が何を質問しても上の空だった。
 結局、斎藤はこの年20勝を達成したが、落合に痛打を浴びる前に既に15勝していたことを思えば明らかな失速。落合の一撃はそれほど強烈な一発だった。

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