日めくりプロ野球 8月

【8月21日】1957年(昭32) これでどうや!カネやん、騒乱関係なしの完全試合達成

[ 2008年8月16日 06:00 ]

地元名古屋で完全試合を達成した金田正一。プロ入り2年目にはノーヒットノーランも記録している
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 【国鉄1-0中日】「そんなにワシが嫌いか、そんなにワシの記録にケチつけたいんか!」。国鉄・金田正一投手が記者席で怒りをぶちまけた時、まだ試合は終わっていなかった。しかも金田はまだ登板中、完封勝利どころか、走者を1人も出さず、完全試合へ突っ走っていた最中だった。
 中日球場の中日-国鉄17回戦、9回裏、中日の代打・酒井敏明捕手はカウントは2-1。金田の外角低めストレートにバットが反応した。ハーフスイングに稲田茂球審の判定は「ストライク」、空振り三振だった。

 この判定に酒井をはじめ、中日ベンチは激高。稲田球審を取り囲み、天知俊一監督や西沢道夫外野手らが猛抗議。興奮した地元名古屋のファンが、次々グラウンドに降り立ち、今度は抗議する中日の首脳陣、選手を取り囲むようになってしまった。慌てた中日選手らは、ファンをなだめすかし、スタンドに戻るよう説得、警備にあたった愛知県警中川署員も暴れるファンを取り締まった。
 約15分してようやく騒ぎが収まり、次の打者、代打の牧野茂内野手が打席に入ろうとしたところで、稲田球審がある行動に出た。これが火に油を注ぐ結果になった。
 稲田球審はマイクを握ると「中日側の抗議があったが、認めず試合を再開する」と場内に中断の経緯を説明。すると、中日ファンがさらに逆上。今度は前より多い、500人近くがグラウンド上に乱入した。稲田球審に突進した一部ファンが小突き回し、審判控室まで追いかける始末。収拾がつかなくなった事態に、国鉄ナインは「危なくて試合どころじゃない」と中日側に苦情を訴えた。大記録のかかった金田が記者席で大声を出したのは、この時だった。
 さすがに主催球団の中日は青くなった。暴動で試合が続行できなくなってはと、ついに天知監督がマイクをつかみ、こう言った。「不名誉な放棄試合だけはしたくない。責任は全部私が取るから、ファンの皆様、どうかスタンドに戻り、試合を続けさせてください」。
 午後9時前には終わるような試合は、10時近くになっていた。約45分中断の後にようやく再開された試合。一度冷えた肩をキャッチボールで温めなおした金田は意地になった。「もう文句は言わさん。ど真ん中で全部三振に取ったるわい」。
 ナイターとはいえ真夏のゲーム。体力の消耗を避けるため、打たせて取る投球で球数を少なくしていた金田。8回まで7奪三振は金田にしては少ない方だった。だが、今度はムキになった。
 酒井は結局、ハーフスイングが空振りに取られ三振に仕留めると、続く牧野も3球で見逃し三振。完全試合まであと1人となった中日は代打、太田文高外野手を送ったが、金田はすべてストレートで3球三振で締めくくった。球を受けたベテランの佐竹一雄捕手は言った。「最後はカネの一番早いボールやった。期するものがないと投げられんボールや」。愛知・享栄商(現享栄高)を中退し「ゼニを稼ぐため」と東京へ行きプロ野球選手になった金田は、生まれ故郷での大記録達成を前に、偶然とはいえ、自分の晴れ姿を汚されたようで、腹の中は煮えくり返るようだった。気がつけば奪三振は10。いつもと変わらぬ2ケタ三振を演じていた。
 投球数88、内野ゴロ8、内野フライ3、外野フライ6、奪三振10。日本プロ野球界、おそらく破られることのない通算400勝の179勝目は、偉大な左腕唯一のパーフェクトゲームとして記録に残っている。

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