日めくりプロ野球 2012年8月

【8月12日】1988年(昭63) 緊急登板 紀藤真琴 プロ野球新記録は「やらなくてよかった」

[ 2012年8月12日 06:00 ]

 【広島9―2大洋】大洋の6番山崎賢一左翼手から空振り三振を奪うと、マウンド上の右腕は、大きく息を吐いた。「もしかして、ずっと三振をとっていないか」。一塁側ベンチに戻りながら、背番号12の23歳はそんなことを思っていた。

 広島―大洋17回戦(広島)で紀藤真琴投手は4回2死で大洋・欠端光則投手を三振に仕留めてから、5、6回と3者連続三振で終わらせ、7者連続三振となった。聞けば、これが広島の球団新記録とか。セ・リーグ新記録は大洋・鈴木隆投手が60年(昭35)に記録した8連続三振。あと1つに迫っていた。9連続になればプロ野球タイ記録だ。

 リーグ記録なんて言わずに「日本記録取らせちゃいなよ」。高橋喜彦遊撃手が達川光男捕手にささやいた。達川もそれならとその気になって7回の守備についた。先頭打者は市川和正捕手。“タコ踊り”といわれた、打席での体をよじらせながらのフォームで紀藤の投球を待った。

 東海大時代、同級生の巨人・原辰徳内野手を差し置いて、首位打者にも輝いた男は元来ミートがうまい打者だった。紀藤の外角球を強振せず、チョコンと当てた打球は山崎隆造右翼手の前にポトリと落ちた。広島市民球場のスコアボードの「H」のランプがともった。逆らわず、軽く当てただけのバッティング。記録を作られるよりはとバットに当てることを狙った打撃に出た。

 一塁ベース上から達川の方を見て、ニヤリと笑った市川。いつも死球をめぐって、ホームプレート付近で当たったの当たっていないのと、“タヌキの化かしあい”のようなことをやってきた2人。市川は技ありで不名誉な記録を阻止。してやったりの顔つきだった。

 3回途中、雨で37分間も試合が中断。広島ベンチは試合再開に備えて、投手の交代を決断した。

 阿南準郎監督が選んだのは、紀藤だった。回はまだ浅い。試合をつくってもらうためにも、リリーフは長く投げてもらう必要があった。一番馬力があって、長いイニングを投げてくれそうな投手ならと、5年目の23歳に白羽の矢を立てての登板だった。
 
 7連続三振でチームも勝利。紀藤は4月以来のシーズン2勝目。同じく通算でも2勝目の白星をマークした。「小雨が降っていて、指がよくボールに引っかかったから良かったのかな」と紀藤。記録のことを尋ねられると「えっ、知らなかった。でも、プロ野球記録とかにならなくてよかった。そんなのやって次ボロボロだったら何を言われるか分からないですから」。目の前の勝ち星の方が、記録よりも嬉しかった紀藤だった。

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